この空を羽ばたく鳥のように。





 最近 喜代美にも、やっと肌の合う友人ができたようだ。

 ひとりは同じ米代二之丁の桂林寺町通りを越えたところの、篠田兵庫さまのご次男・儀三郎どの。

 そしてもうひとりは、本ニノ丁に屋敷を構える千石取りの丹羽(にわ)宗家を継いだ、おさきちゃんの従兄弟(いとこ)の右近どの。

 私が名前を知っているのはそのふたりだけだけど、他にも親しくしている友人がいるらしい。



 よかった、と心から思う。



 喜代美はやっと少しずつ、ここでの居場所を自分らしく変えてきたように思える。


 今までは新しい環境の中に馴染むことなく、けれども自分を取り巻く人達にけして逆らわず波風を立てず、
 じっと息をひそめて、あくまでも穏やかに謙虚に過ごしていたような向きがあった。


 変な言い回しだけど、きっと彼はいま、本当の『津川喜代美』になってゆく過程の途中なのだと思う。


 今まで心の奥底に引っかかっていた「自分は本当に必要とされているのか、自分の居場所など本当はどこにもないのではないか」という心の迷いが消えて、
 津川の人間としての自信と誇りを持ち始め、そして本来の自分を取り戻している最中なのかもしれない。