冬になり、山国会津は雪にすっぽり覆われる。磐梯山も真っ白だ。
あたり一面を白く染める雪化粧の美しさは、きびしい季節の中でも心を慰めてくれるもののひとつ。
必然的に家の中に引きこもることが多くなるこの時期、私はもっぱら機織りや糸紡ぎに勤しんでいた。
「さより姉上」
今日も家事の合間に機織り部屋で仕事をしていると、喜代美が声をかけてくる。
「また雪が降ってきましたよ」
その言葉に機織り部屋の窓を開けて外の様子を窺うと、ちぎれ落ちてきたようなぼたん雪が音もなく舞っていた。
「ほんとね」
しばし手を止め、その景色に見入る。
雪がすべての音を吸い込んでしまったかのような静寂の中で、喜代美がそばに寄り添い、同じ景色を眺めているのを感じる。
最近、喜代美はいつもそう。
たとえ私の機嫌が悪くとも、些細なことで気まずくなっても、こうやって日常の小さな変化を見つけるたびにそれを知らせてくれる。
始めの頃はそうやっていちいち呼びに来る喜代美に苛立ちをあらわにしていたけれど、それでも変わらない彼の態度に、結局根負けしてしまった。
けれどいつしかこうしてふたりで見る日常の景色は、私の心を穏やかにしてくれるものに変わっていた。
振り返るといつもそこに、喜代美が寄り添い微笑んでいてくれるから。
彼はいつものように優しいまなざしで、私を見つめ返して言う。
「これから友人の家に出かけて参ります。夕餉までには戻りますから」
「うん。……あ、綿入れはちゃんと着込んでね?襟巻きも……」
「襟巻きは必要ありません。虎鉄を首に巻きつけたほうが、よほど温かい」
「ほんとに虎鉄巻いて行くの?あきれた」
「それが……巻きつけようとしたら、逃げられました」
そう言って喜代美は笑う。
虎鉄が家に来てからは、少年らしい笑顔が増えた。
「あきれた」
そんな会話を交わしながら、玄関まで喜代美を見送る。
質素倹約と強靭な精神を培うため、藩士の子弟達は冬でも丈の短い着物を着て、裸足に下駄を履いて雪の中を出かけてゆく。
「では 行って参ります」
「いってらっしゃい」
お辞儀をすると、喜代美は傘をさして歩きだした。
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