虎鉄はすくすくと育っていった。
やんちゃな子猫は可愛らしく、見ていて心和む気持ちにもなるが、やはりいたずらもまた多かった。
布団の上で粗相をしたり、柱で爪を研いだり障子を破いたり。
私のお気に入りの着物もやられて、あの時ばかりは怒り心頭のあまり煮て喰ってやろうかと思ったほどだ。
次々と被害が出て皆が困り果てるなか、ひとり喜代美だけは虎鉄のやんちゃぶりを喜んでいた。
「喜代美!ちょっと虎鉄どうにかしてよ!あんた親でしょっ!?」
腹に据えかねて文句を言いにいくも、喜代美は涼しい顔。
「親は私だけではありませんよ。さより姉上もでしょう?」
「うっ……!あれは!」
突っ込まれ、思わず苦い顔になる。
喜代美が虎鉄を飼えるよう願い出るため 父上のところへ赴く際に、
私も同席して一緒に責任持って世話をするからと、ついうっかり言ってしまったのだ。
「よいではありませんか、元気な証拠です。
そのうち成長とともに、落ち着いてくるでしょう」
喜代美はゆったり笑う。
自分だって、大事な書物を何冊か爪研ぎにされたというのに。
いつものように縁側に腰かけ、中庭を元気に走り回る虎鉄の姿を目を細めて眺めている。
(この親バカめ)
「あんた、自分に子どもができた時も、そんなふうに甘やかすつもりなの?」
思わず頭に浮かんだことをそのまま言ったら、喜代美が目を大きく瞬いてこちらを見上げた。
「あ……そうですね。もっぱら甘やかすほうに回るかもしれません……」
自分でも想像してしまったのか、頬を赤らめてうなじを掻く。
まあ、子どもに毅然とした態度で厳しく接する喜代美なんて想像できないけどね。
やっぱり親バカな姿を思い浮かべてしまい、ぷっと吹き出す。
「じゃあ、妻に迎える女子は、しっかりした人じゃなきゃダメね!」
「はい、その通りです。ですから私はさ……」
そこであわてたように、喜代美は言葉を切った。
※粗相……大小便をもらすこと。
※毅然……意志がしっかりしていて、ものに動じないさま。
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