「喜代美……!遅くなんかなかったよ!? まだ間にあったんだよ!! よかったね、喜代美!!」
喜びに笑顔で見上げると、同じ表情で見返す彼がすっと手を伸ばしてきた。
子猫を抱きあげると思われたその手は、私の背後にまわされ、喜代美は子猫を持つ私ごと抱きしめた。
「よかった……!」
子猫が押しつぶされてしまいそうなほど、強く抱き寄せる。
この細い腕のどこにそんな力があるのか。苦しいくらいだ。
それと同時に、密着した喜代美の身体からあたたかな体温が伝わってきて、私の身体がいっきに熱を帯びた。
「ちょっ……喜代美!! 苦しいよ!! 子猫つぶれる!!」
「あ……すみません!つい……」
喜代美はあわてて腕を緩めると、抱き寄せられたがために態勢を崩した私を、支えるように両腕を掴んでくれる。
身体から離されても、まだ触れられている部分が熱くて。
私はきっと顔が赤いに違いない。
ちらりと見上げると、溶けてしまいそうなほど優しいまなざしで見つめ返す喜代美の頬も少しだけ……赤い。
「ありがとうございます……。あなたがいてくれてよかった」
「………」
なんて答えたらいいか分からない。
いつもの喜代美に戻ったようなのに、いつもと違う。
ねえ……どうして私を、「あなた」なんて呼ぶの?
なんでいつものように「姉上」って言ってくれないの?
なんで私を抱きしめるの?
これじゃあ まるで、私は「姉」じゃないみたい………。
自分で及んだ考えのせいで、余計に顔が火照ってしまう。
なんだろう。喜代美の顔がまともに見られない。
「さより姉上」
「はっ……はい!」
声をかけられ、飛び上がるように反応する。
見上げると、私から手を離した喜代美も頬をさらに染め、照れくさそうにうなじを掻いた。
「姉上。こちらは引き受けますから、子猫に餌を与えてやって下さい。あとは私ひとりで大丈夫です」
「あ……うん。わかった」
頷いて、子猫を抱えたまま立ち上がると、逃げるようにその場から離れる。
ドクン、ドクン、ドクン。
――――静まれ、心臓。
ドキドキなんて、してはダメ。
それは姉として許されないことだ。
だって喜代美は……弟なのだから。
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