この空を羽ばたく鳥のように。





 ――――暑い。梅雨が明けると本当に暑い。


 なぜこんなにも暑いのだろう?

 会津は山々に囲まれた盆地だからかしら?

 まるで釜でぐつぐつ煮られているみたい。





 早苗さんの話がうっとうしくて、裁縫の時間が終わるとすぐ「用事があるから」と、おたかが迎えに来てもいないのに、ひとり早々と裁縫所をあとにした。



 本当は私も、喜代美のことをおますちゃんに話したかったのに。



 あれだけ喜代美の話ばかり聞かされていたから、話す気も失せた。



 彼女と一緒にされるなんてごめんだ。






 あんまり暑いから、早足で家に向かう。

 けれど内堀脇の大町通りから屋敷の前の通りである米代二之丁の角を曲がろうとして、つと足が止まった。



 以前と同じ光景を目にしたからだ。



 日新館の正門の前で、群がる生徒達。
 頭ひとつ高い生徒はやはり喜代美だ。



 (あれ?何でこんなに終わるのが早いの?)



 と 疑問が浮かんだけど、

 この暑さだ。きっと四ツ帰りなのだろう。
 たしかにこの暑さはつらいもの。



 日新館では猛暑中に『四ツ帰り』と称して、文字通り四ツ(午前10時)で学業を終了する時がある。



 とっくに四ツは過ぎているのに。
 昼打ち(什の昼の集会)で遅くなったのだろうか。





 (それはいいとして、なんか以前と様子が違うな?)



 なんて思う間もなく、生徒達のあいだから鋭い声があがった。



 「また(にし)か!津川!」


 (えっ!?)


 「臆病者が!汝はまた祟りが怖いとかぬかすのだろう!?」


 「今度は蛇の祟りとでも申すか!? はっ!軟弱者め!!」



 たたごとじゃない様子に 、じっと目を凝らして成り行きを見つめる。



 生徒の顔を見ると、やはり以前 父上まで愚弄した喜代美のムカつく朋輩達。



 そしてこちらに背を向け、彼らの前に立ちはだかるようにしているのは喜代美だ。