絶え間ない砲撃は十六日も続いた。
けれど三日目ともなると、いい加減塹壕の中で息を潜めているのが嫌になった。
(もう我慢できない!)
多少、捨て鉢になってるのかもしれない。
源太もいない。九八もいない。助四郎も勘吾もいない。
男手はなく、残されたのは女達だけ。
私達の世話をしてくれる者はどこにもいない。
ならば自分達で何とかしなければならないではないか。
大砲の音が少しでも遠のくとすぐに塹壕から抜け出す。
そして井戸まで走り水筒に水を汲んできたり、砲撃で欠けてしまった七輪や歪んだ鍋を引っ張り出して、みどり姉さまと一緒に煮炊きも始めた。
昨日からまったく何も口にしていない。
母上やえつ子さまに、ほんのわずかでも食べていただきたい。
(戦が終わる前に餓死なんてごめんだわ!)
戦争に対する怒り。
敵はもちろん、味方である軍事局に対する怒り。
そして何よりも自分に対しての怒り。
さまざまな憤りが私の原動力となっていた。
(負けるもんか!)
心を奮い立たせ、有り合わせの材料で食事を作る。
数個あった南瓜と残りの味噌を全部溶いて味噌汁を作った。美味しそうな匂いにお腹が鳴る。
料理にばかり気をとられていたら、ふいに砲弾の音が近づいてきた。
「みどり姉さま、ふせて!」
叫んでみどり姉さまの上に覆い被さる。すぐ間近に落ちてきた砲弾は大きな音を立てて長局の屋根を砕き、あたりに砂塵を巻き起こした。たまらずゴホゴホ咳込む。
「みどり姉さま、大事ないですか?」
「ええ……」
榴弾かと心配したが、どうやら焼玉のようだ。
爆発が無かったのは運がいい。
煙がおさまってから、辺りに目をやる。
「……っ、ああ〜っっ!味噌汁が‼︎ 」
私達の口に入るはずだった味噌汁は落ちてきた破片に当たり鍋ごとひっくり返っていた。この落胆は今までの比ではない。最後の味噌だったのに。たまらず「ううう」と涙が出る。
せめて味噌汁の具だった南瓜を拾い、汚れを水で洗う。
不幸中の幸いと言っていいか分からないが、南瓜は火が通っていて柔らかくなっていた。
せめてこれだけでも母上達に食べてもらうしかない。
「まったくもう!憎ったらしいったらありゃしない!」
たまらず文句を吐き捨て立ち上がると、落ちてきた焼き玉に土をかけて火を消す。屋根の上に燃え移った火はすでに鳶の者のひとりが消火に当たっていた。
何かしらの調味料を調達しないと。源太達が持ってきてくれた野菜はまだ少しあるけど、ただ煮るだけでは何とも味気ない。
「みどり姉さま。私、どこかで分けてもらえるか探して参ります」
味噌や醤油が無理でも、せめて塩は分けてもらえるのではないだろうか。
「気をつけてね」と心配そうなみどり姉さまの声を背に駆け出す。
長局の中で避難していた人達にもひとつひとつ声をかけてみるが、どこも分けられるほどの余裕はない。
終わりの見えない戦いだ。
誰だって自分達の命をつなぐ大切な食糧をわずかなりとも減らしたくないのが本音だった。
(少し離れたところでも探してみるか……)
そう考えながらうろうろ歩く。
けれど、食材や調味料がありそうなところなんて……。
悩みながら探し歩くうち、御台所に着いた。ここなら分けてもらえるかもしれないと、ひと握りの希望を胸に入り口へ近づいてゆく。
土間に足を踏み入れてすぐにギクッとした。目の前にどこかの若党がうつ伏せで斃れていた。源太と似たような姿を見て胸が痛む。
(源太は無事だろうか……)
皆の安否を気にしながらまわりを見渡す。
広いはずの御台所は天井がひどく崩れ落ちていて、土間と板間は瓦礫が散乱している。
遺体はいくつも確認できたが、人影は見当たらなかった。
足下に注意しながら壊れていない甕や棚の中をあさってみたが、調味料も食材も見つけることができない。
焦りのせいか、喉が渇く。気持ちを落ち着かせようと土間に置いてある水瓶を見つけ、そこから手で水をすくって飲んだ。
(御台所はこんなにめちゃくちゃになっているんだもの。もしかして安全なところへ移動したのかもしれない)
塩蔵にでも行ってみようか。そう思いつつ、諦めきれずにまだ探していると、いきなり背後から声をかけられた。
「そこで何をなさっているの」
女人の声だった。
家捜しのような行為を咎める口調に思わず立ちあがる。
事情を話そうと振り返って「あっ」と声をあげた。
「さっ……早苗さん⁉︎ 」
そこに立っていたのは、入城していないと思っていた早苗さんだった。
.

