この空を羽ばたく鳥のように。





砲撃はとにかく凄まじかった。被害も甚大(じんだい)だった。

奥御殿では、照姫さまをお守りしていた家老•山川大蔵さまのご妻女であるおとせさまが被弾されて亡くなられたという。私のひとつ上の十九歳だった。

あまりの砲撃の激しさに、もう城は落ちると先行きを悲観して自害する藩士や家族もあらわれた。
同じように城門が破られたと勘違いしたのか、照姫さま付きの藩士でいざ落城する際には介錯役も仰せつかっていた鈴木新吾なる者が精神に異常を来たし、刀を振り回して照姫さまにご自害を迫ったとして大騒ぎになった話も耳にした。

そんな中でお城の東南にあった豊岡神社の焼跡に砲塁を築き、小田山からの砲撃に応戦したのは、お八重さまと川崎尚之助さまご夫妻が指揮する一団だった。その攻撃は一時小田山の敵を黙らせたというからすごい。

それに勢いを得てか、三の丸の東側の防備についていた越後口帰還組の白虎寄合隊の半隊が小田垣方面へ出撃した。
しかし形勢は良くならず、半隊頭(隊長)を含む三人の犠牲者を出して三の丸へ退き、突破口も開けることなく西軍の攻撃はますます激しくなっていった。

砲撃はこの十四日だけでも千五百発は超えていたという。





翌十五日も朝から砲撃は続いた。軍事局から城内の婦女子に対し、「本日は砲撃が激しく婦女子は危険なので働かなくてもよい。集まって隠れていよ」との通達が出た。

なので私達も仕事に出ずに長局の塹壕の中に隠れ、辺りで続けざまに落ちてくる砲弾に身を寄り添わせて耐えていた。


まったく西軍はどれだけの大砲と砲弾を持っているのか。
きっと武器やら兵士やらが足りなくなっても、官軍の威光を持ち出して他藩から軍資金や武器と兵力を捻出させているに違いない。しかも耳にした話では、降伏した藩の兵士をまるで見せしめのように戦いの最前線に立たせているとか。

少し前まで(とも)に戦っていた味方が、敵に(くだ)ったあと手のひらを返すように攻撃してくるなんて。
それをさせる西軍が腹立たしい。


時が過ぎるにつれ、砲撃はますます激しくなっていた。
東南の小田山からはもちろん、北西にある七日町(なぬかまち)や制圧した各郭門にも大砲を引っ張り出して撃ってくるので、どの方面からも砲弾が飛んできた。



「さよりお嬢さま」



塹壕の上に置かれた畳がずらされ助四郎が顔を覗かせる。



「助四郎、様子はどうだった?」



土中では他所の様子が分かりにくい。助四郎に外の様子を見に行ってもらっていた。三人の中で一番若い助四郎は緊張した面持ちで答えた。



「へえ、どこもひどいもんですが、大書院や小書院の辺りの被害が特にひどいようです」


「そう……ならすぐに向かわなきゃ」



救護処の拠点となっている大書院や小書院には動けない負傷者が大勢いる。避難させる場所もないだろうが、行けば何かしらやれることがあるはずだ。

立ち上がろうとすると手を掴まれた。となりにいたみどり姉さまが不安な表情で訊く。



「行くの?さより……」

「はい。動けない方がたは困っておられるでしょうから」



そう言っている間にも空を切るような音が近づいてくる。



「来るわ!助四郎、中に入って!」



身を詰めて場所を空けると、すかさず助四郎が塹壕の中へ身をすべり込ませた。次の瞬間。

ドォンと大きな爆発音とともに地は揺れ、屋根瓦や土壁が大きく崩れる音がした。塹壕を塞いでいた畳にも衝撃波が来て何かが当たる。重石(おもし)をしてなかったら畳は吹き飛ばされ、瓦礫が私達の上に降り注いでいただろう。
爆風がブワッと巻き起こり、塞ぎきれなかった畳の隙間から土埃が入りこんでたまらず咳込んだ。



「お嬢さまがた!大事ねえですか?」

「ええ……」



暗い塹壕の中で助四郎の言葉に私とみどり姉さまがうなずく。けれどもまたもやピュウウと笛のような音がした。



「また来るわ!」



思わずとなりにいるみどり姉さまと抱き合う。轟音が鳴り響き地面が揺れた。建物が壊れる音も大きい。長局が崩れて、落ちてきた瓦礫が畳の上に降ってきたらどうしよう。塹壕から出られなくなれば生き埋めになってしまう。



「お嬢さま、この状態で出てゆくのは無理です」

「そうね……砲撃の向きが変わらないと出られないわね」




しばらく出られないことに不安と焦りで歯噛みする。
大書院にいる山浦さまや坂井さまはご無事だろうか。
他の負傷者の方がたは。
できるだけ早く向かいたいのに。



「……となりは大丈夫かしら」



となりの塹壕には母上とえつ子さま、そして勘吾が避難している。少しだけ畳をずらして外の様子を見る。となりも畳が砕けてはいない。三人は無事だろうと思われた。


それからしばらくは砲弾が落ちてきたが、幸い塹壕に直撃することはなかった。そのうち大砲の向きが変わったのか近くに落ちてこなくなった。

今のうちとばかりに助四郎と一緒に塹壕を出て、となりの母上達をうかがう。みな無事のようだ。

大書院へ行くことを告げると、十分に気をつけるよう言われ、母上は気丈に送り出してくれた。


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