そんな優子さんを横目でうかがうと、私は両手をつかえて たつ子さまを強く見据えた。
「たつ子さま。確かに私達はそのような配慮に欠けておりました。今後は私達も奥女中の方がたにならい、負傷された他国の方がたをお慰めできるよう勤めたいと存じます」
たつ子さまの冷ややかな声が響く。
「それはいつからですか」
「いまからでも!」
まっすぐ見つめすぐさま応じると、たつ子さまはフッと笑った。嘲笑ともとれる笑みだった。
「あなたがたに見せたいものがあります」
そうおっしゃると、たつ子さまは訝しんで顔を見合わす私達三人を尻目に「手燭を用意してまいります」とその場を離れた。
「なんだ、あいつ。生意気な女だ」
たつ子さまの背中を睨みつけながら坂井さまが舌打ちする。それをとなりのおさきちゃんが窘めた。
「滅多なこと言わないの。仕方ないわ、たつ子さまがおっしゃることも一理あるのだから」
山浦さまや源太は難しい顔で押し黙っている。
山浦さまにしてみれば、自分の世話に時間を費やしてくれた優子さんをあんなふうに言われることに憤りを感じているかもしれない。
「私はしばらくここにいるから、源太は先に長局に戻って休んで」
たつ子さまを待つあいだ、となりの源太に小声で言うと、源太はにこりとしてうなずいた。
「私には構わずに。お嬢さまはどうぞお勤めにお励みください」
「うん」と 私もうなずき返すと、たつ子さまが手燭を手に戻ってきた。
「わたくしについてきてください」
促され、私とおさきちゃん、優子さんが立ち上がる。すると源太がたつ子さまに声をかけた。
「お待ちください。差し支えなければ、私も付き従ってよろしいでしょうか」
突然の申し出に驚いたのは私だ。振り向いたたつ子さまが不思議そうに源太を見た。
「あなたは?」
「私は津川家に仕えまする若党の春日源太と申します」
源太が頭を下げて名乗ると、たつ子さまは今度は私に視線を移した。
「それほど さよりさんが心配ですか」
またもや含んだ言い方に、私のほうがドキリとする。けれど源太は反応を示さず、神妙な顔で首を横に振って答えた。
「いえ、私でもお役に立てることがあればと思ったまでです」
皆がたつ子さまのお顔を注視するなか、つかの間黙していた彼女は、
「よろしいでしょう。ついてまいりなさい」
おもしろそうに笑みを浮かべると、承諾して向きを変え歩き出した。
ホッとして私達も後に続く。源太も立ち上がってついて来た。
私は、源太の顔が見れなかった。
源太は頼りになる。
源太がそばにいることは心強いし、ありがたくもある。
けれどついていくことを望んだ源太に またもや先ほどの疑問がわいた。
声をかけて、その理由を聞くことができなかった。
源太がどう答えるのか、それを聞くのが怖かった。
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