この空を羽ばたく鳥のように。




 「どうやら城門も閉ざされていたようだしね。だから」



 仕方なくおますちゃんは家族を引き連れて、とりあえず西の郊外へ避難することにして大川(阿賀川)を目指したのだそうだ。

 けれど大川は、ひどい混雑に見舞われていた。

 橋は無く、渡し船しか川を渡る手立てがない。
 連日の雨で濁流となっていたその川に、城下から避難してきた民が押し寄せていた。

 渡し船は小舟で数も少なく、われ先にと乗り込む人々で溢れ、船が沈没する有り様であった。

 おますちゃん一行は渡し船に乗ることをあきらめ、川沿いを歩いた。

 川を眺めていると溺死した人や傷だらけの兵士の遺体が流れていたという。

 城内へ入る当てがはずれ、行く場所もなく歩いていたが、屋敷の始末をつけて追いかけてきた家僕に会い、その者の実家に身を寄せることができた。


 そこに五日ばかり滞在したあと、村人からお城の南側なら城内に入れるとの情報を耳にし、危険を省みずお城を目指して、何とか無事に入城を果たすことができたのだという。



 「落ち着ける場所があったのに、どうして入城を……?」



 私の質問に、おますちゃんは莞爾(かんじ)と笑った。



 「旦那さまのご命令ですもの。何があっても、城へ入れと。その言いつけを守っただけよ」



 ( ……!)



 ―――なんだか、私の知らない夫婦の絆を見たような気がした。

 ただ言いつけを守っただけ。

 おますちゃんのその言葉は、夫に対する全面的な信頼にあふれていた。


 お腹の子のためを考えたら、郊外の信頼できる知人のもとに身を寄せていたほうが、はるかによかったに違いない。

 けれど、おますちゃんはそうしなかった。

 夫である下平さまのお言葉に従った。



 (妻とは―――なんと強いものなのだろう)



 おますちゃんが 少し羨ましく感じた。

 私も、そうなりたかった。


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