「お八重さま。私どもにもやらせてください」
皆も同じ気持ちだった。集まった婦人達は一同に申し出た。
お八重さまも見渡して頷く。
「ありがとうございます。ですが、けして無理はなされませんよう。砲弾はよく見れば、だいたいの落下位置が分かります。もしためらいが生じたならばすぐにお逃げください。迷うその一瞬が命取りになります。それだけ危険な仕事ですから」
お八重さまはそう仰せになり、柘榴弾のように炸裂する弾は四斤山砲の筍弾もそうであることを教えてくれ、
「この他にも焼玉というものがあって、これは熱した鉄の玉を撃つの。落とされたらそこから火の手があがり火災になる。
けれどこの焼玉なら炸裂するおそれがないから、濡らした布団や着物で玉を冷やせば火災は防げるわ。押さえるならこちらのほうを重点的にしましょう」
「はい!」
「屋根の上に落ちた焼玉は手出し無用です。照姫さまのお話では、江戸から駆けつけてくれた鳶の者二十名ほどが火災が起きぬよう働いてくれているそうです。高いところはその者達に任せましょう」
「かしこまりました」
「江戸から鳶の者が……ありがたいことですわね」
「本当に」
皆でそんなふうに交わしていると、ひとりの婦人が板の間に駆け込んできた。
「中野こう子さまのご一行がお城に入城されたそうです!何でも戦場を駆け抜けて入城を果たされたそうで、ただ今ご老公さまの御前に召されて御座所におられるそうでございます!」
「なんと……戦場の中をですか?」
にわかに婦人達がざわついた。
(竹子さまが戻られた!)
その報に、胸が喜びに膨らむ。早く竹子さまにお目にかかりたくてたまらなかった。
「それでは皆さまでお迎えに参りましょう!」
私が言うと、皆が頷いて顔をほころばせた。
御老公さまの御座所は、小田山からの砲撃を避けるため、今は鉄門(くろがねもん)の陰にあった。鉄門はいくつかある門の中で唯一鉄で覆われた頑丈な門だった。
皆で近くまで行き、こう子さま達が姿を現わすのを待っていたが、通りがかりの御用人から、こう子さまご一行は今度は照姫さまのもとに向かわれたということで、私達はまた本丸御殿に戻った。
※鳶の者(とびのもの)……土木•建築工事に従事する人。江戸時代には町火消し人足を兼ねた。
※御用人(ごようにん)……江戸時代の武家の職制のひとつ。主君の用向きを家中に伝達して庶務を司ることを主たる役目とした。有能な者から選ばれることが多かった。
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