この空を羽ばたく鳥のように。





 夏の夜空はたくさんの星に満ちていて、まるで吸い込まれていくような不思議な感覚に(おちい)る。



 「ほんとだわ……。すごくキレイ。こりゃ、あんたにお礼を言わなきゃだわね」



 その美しさは、心を素直にさせてしまうものなのか。
 浮かんだ言葉を詰まることなく、私の口からするりと引き出してゆく。



 「よかった」



 その声があまりにも近くで聞こえたから、あわてて振り向く。
 いつのまにか喜代美がそばに寄り添い、安心したように微笑んでいた。
 頭ひとつ高い彼を見上げると、優しいまなざしで返してくれる。



 「……礼を申すのは 私のほうです。ありがとうございます」



 なんでお礼を言われるのだろうと訝しむけど、「ああ喜代美はすべてお見通しなんだな、この子は聡い子だから」と思い直す。



 「……実家はどうだった?楽しかった?」



 会話がないから、結局帰省の話になってしまう。
 父上や母上にさんざん聞かれただろう質問にも、喜代美は嫌な顔せずにうなずいて答えてくれた。



 「はい。久しぶりに家族の顔を見てまいりました。やはり帰ってよかった。
 父は不在でしたが、母からいろいろと話を聞くことができました」



 ああ そうだった。京都守護職を拝命したお殿さまの上洛に従って、大半の藩士たちが会津を出てしまっているのだった。



 星空を見上げながら話す喜代美を見つめて、なぜか胸がちくりとうずく。



 「……早苗さんも来たでしょう?」



 うつむきながら訊ねる。



 「はい。とても賑やかで、まるで幼い頃に戻ったようでした」

 「そう。よかったじゃない。喜代美が実家に戻るの、とっても楽しみにしてたから。
 早苗さん、いつもあんたの心配しているわ。いい子よね、あの子」



 思わず、心にも思ってないことを口にしてしまう。



 「そうですね」

 「明るいし、可愛いし!お針も私なんかよりずっと上手よ?早苗さんはきっといいお嫁さんになるわね!」


 (……私。なんでこんなに彼女を褒めてんだ?)



 私がこんなこと言わなくとも、喜代美のほうがずっと彼女の良さをわかっているはずなのに。

 なんだか胸に刺さった(とげ)を、自分でぐいぐい押し込んでるみたいだ。



 「そうですね」



 喜代美だって否定したりしないから、棘はどんどん深く刺さる。
 苦しさを吐き出すように、いっきに言った。



 「早苗さんが喜代美のお嫁さんに来ればいいのにね!」