向き合って座るふたりは、深刻な表情をしていた。





(……なんだろう?)





その雰囲気になんだか近づくのはためらわれて、源太のところは後にしようと足を忍ばせそっと離れる。


代わりにと言っては悪いけれど、坂井さまのところへ向かった。


坂井さまは「他にも重傷な者がおろう」と、横になることを拒み、相変わらず壁にもたれて疲れたように頭をうなだれていた。

お休みになっておられるのだろうか。それとも塩梅(あんばい)が良くないのだろうか。
後者のように思えて、気になって静かに近づき様子を窺う。



「……坂井さま?」



小さく声をかけると、坂井さまはすぐ反応して左脇に立てかけていた大刀を掴んだ。



「敵襲ですか」



そんな夢でも見ていたのか、はたまた休んでいても気が張っているためか、顔をあげた坂井さまは鋭い声で訊ねる。



「あ……いいえ、申し訳ございません。お加減が悪いのかと心配になりまして……つい、お声をかけてしまいました」


「さようですか……こちらは大事ありませんので、他(た)の者を看てやってください」



坂井さまは気を害した様子もなくまなざしを緩めると、引き寄せた大刀を床に置いて再びうつむいた。



「はい……」



大丈夫だろうか。気を緩めた目が虚ろな感じがしたけれど……。



気にはなったが、言われたとおり他の重傷者を看ようと一揖して腰をあげたとき、背後に人の気配を感じた。

振り向くと、さっきまで源太と話していたはずのおさきちゃんが、表情を消して立っている。



「……おさきちゃん?」


「どうした、さき姉。何があった」



うつむいていた坂井さまが、おさきちゃんの異変に気づいて顔をあげると穏やかな声をかけた。

すると坂井さまの前で力無く座り込んだおさきちゃんが、うなだれて暗い声を落とす。



「……伯父さまが。庄兵衛伯父さまが、天神口の進撃で命を落とされたって……」


「え……!」


「決死隊に参加された源太さんが……伯父さまの最期を、とても見事な闘いぶりだったと……」



では先ほどのあれは、源太がおさきちゃんに親類の戦死を伝えていたのか。

この時代、国を守るため、殿を守るために命を落とすことは、武士としてとても名誉とされた。





(頭では分かってる。でも……)





おさきちゃんの目から大粒の涙がこぼれる。
胸が詰まり、彼女の肩を抱いて寄り添った。



おさきちゃんは、今年の正月に始まった鳥羽伏見の戦いで兄の雄介さまを失ったあと、父である丈之助さまが藩の密命を受け、水戸藩へ使いに出た帰りに西軍に捕まるという不運が続いた。

そして今また、伯父である入江庄兵衛さまの戦死の報を受け、弟君の雄治どのは喜代美と同様行方が知れない。



男たちが どんどん失われてゆく。



それは残された家族に 暗い陰を落とした。










※一揖(いちゆう)……軽くお辞儀をすること。


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