この空を羽ばたく鳥のように。





起き出してからは、大書院でいっそう看護の仕事に打ち込んだ。

私を心配して集まってくれたみどり姉さま達も、それぞれの仕事場に戻っていった。

砲弾や銃声の音は激しさを増している。地響きもいっそう強まっている。負傷者もどんどん運ばれてくる。

それでも自分の感情を押さえ込み、仕事にはげんだ。



念頭にあるのは、ただただ『お役に立つこと』。



与えてくれた真心に、感謝の思いで応えたい。






「お食事をお持ちいたしました。滋養をとって気力を養ってください。きっとすぐ良くなります」



白米のおむすびと香の物を配りながら励ましの言葉をかけ、大書院の中をめぐる私の目の端に、ふと所在がなさそうな様子で壁に寄りかかる左腕を負傷した若い男子の姿が映った。



ドキッとして振り返る。喜代美かと思った。

けれども残念ながら、よくよく顔を見れば喜代美ではない。広い額(ひたい)に太い眉、なかなか利発そうな面差しの少年で、黒い軍服姿が喜代美とよく似ていた。



もしやと思い、食事の運搬もそこそこに、思わず少年のもとに駆け込む。



「もし……!不躾ながらお訊ねいたします!もしやあなたさまは白虎隊のお方でございましょうか⁉︎
でしたらあの、士中二番隊の津川喜代美の消息をご存じではありませんか⁉︎」



いきなり問い詰められ、少年は驚いて目を瞠る。
当惑しながら彼は答えた。



「いかにもそれがしは白虎隊の者です。なれど それがしは士中一番隊に属しておりまして、甲賀町郭門の防衛を務めておりました。……申し訳ございませぬが、二番隊の行方は存じませぬ」


「ああ……さようでしたか……。それはご無礼いたしました……」



あからさまにがっかりする私を見つめて、銃創の痛みも厭わず彼が訊ねてくる。



「津川どののお身内の方ですか」


「はい……。ご老公(容保)さまに追従して滝沢本陣へ出陣したあと、そのまま前線へ赴いたと耳にいたしました。それからの消息が分かりませぬゆえ、つい取り乱してしまいました。どうかお許しください」



手をつかえてお詫びする。けれど心の中は暗雲が覆うばかり。





今のところ、白虎士中二番隊の者を城内で見たという話は聞こえてこない。

士中二番隊の隊士達は、いったいどうなってしまったのか。





喜代美の消息を案じて思い詰める私を、気の毒に思ったのか、彼が言った。



「士中二番隊には朋輩も多くおりますゆえ、それがしも案じておりました。
今は他の隊士達も城内の防衛に当たっておりますが、夜になれば戦闘も落ち着くでしょう。さすれば こちらに顔を出す者もおるはずです。
それがしも訊ねてみますゆえ、二番隊の行方が分かりましたらお報せいたしましょう」


「……本当でございますか⁉︎ ありがとうございます‼︎」



思わぬ申し出に顔を輝かせる。もしかしたら喜代美につながる情報が手に入るかもしれない。
そう思うと、暗雲のかかった心に光明が差した気がした。



「私は喜代美の姉でさよりと申します!些細なことでも構いませんので、何か分かりましたらぜひお報せください!」


「承知いたした。それがしは……」



少年が名を名乗ろうとしたとき、大きな声が降ってきた。