すると、みどり姉さまが風呂敷に包まれた平たいものを取り出した。
見覚えのあるそれを見て、一瞬 驚く。すぐに自分の着物の懐をまさぐる。―――ない。入ってない。
「みどり姉さま!それ……!」
「開けてみなさい」
膝に乗せられ開けるよう促されたそれは、私が屋敷を出る時に懐に入れていたもの。
ほとんど平らなはずの風呂敷包みは、中心あたりに何かがめり込んだような痕ができていた。
ゆっくりと風呂敷をめくり、中を開いてみて、「あっ」と声が漏れる。
風呂敷の中には、わが津川家の系譜と八郎さまからお預かりしていた櫛を包んでいた。
―――その櫛が、まっぷたつに割れている。
「これは……」
系譜も衝撃を受けたため少し破れてシワになっていた。けれど貫通はしていない。
驚いて自分の着物を探ると、みぞおちあたりに小さな穴が開いていた。
「八郎さまとご先祖さまが、お前を銃弾から守ってくださったのよ」
みどり姉さまの言葉に、胸が熱くなる。
割れてしまった櫛を両手ですくい、胸に抱きしめる。
「八郎さま……‼︎」
八郎さまの姿が思い浮かぶ。私と喜代美の未来を思い遣ってくださった、優しい八郎さまの笑顔が。
訃報が届いたあの日さえ、あなたは私に笑顔を見せてくれた。
(八郎さま。あなたは、こんな私を助けてくださったのですか……?
喜代美と結ばれる日を信じて、お守りしてくださったのですか……?)
「ありがとうございます……八郎さま……‼︎」
とめどなく流れる涙を拭いもせずに泣き続ける。
生と死のはざまに直面して、初めて解るまわりの人達のまことの思い。
感謝の気持ちや申し訳ない思いが相まって、感情が抑えられない。
「おさよちゃん……」
おさきちゃんが寄り添い、肩を抱いてくれる。えつ子さまも一緒になって泣いてくださる。母上も。みどり姉さまも。
八郎さま。私ひとりだけじゃありません。あなたの人柄を思い偲ぶ方がたが、こんなにもおられます。
あなたは孤独じゃない。どうかこの思いが、遠い彼方におられる八郎さまに届きますように。
いつか私がそちらへ向かうとき、あらためて感謝の思いを伝えますから。
「さあ、いつまでも感傷に浸っておられませんよ、津川さよりさん。仕事はたくさんあるのですから」
泣き続ける私を励ますように奥女中の娘から声をかけられ、驚きに涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげる。
「このままゆっくり休むつもりなど、もちろんあなたにはございませんでしょう?」
「おっしゃるとおりです。ですが、どうして私の名前を……?」
「さて、どうしてでしょう」
奥女中の娘はいたずらっぽく笑って腰をあげる。けれど身をひるがえす間際に母上と目配せをしたところを見ると、母上に訊ねたのだろう。
「あ……っ、お待ちください!あなたのお名前をお聞かせ願えませんか?」
立ち去る彼女にあわてて訊ねると、彼女は振り返ってニッと笑った。
「板橋。板橋たつ子よ」

