コォーッ コォーッ
………鳴き声が聞こえる。
あれは、白鳥の鳴き声。
喜代美と一緒に見上げたーーーーーー。
「……おさよちゃん?おさよちゃん!」
鋭く呼びかけられ、うっすらまぶたを開ける。
ぼんやりした視界の靄(もや)が、少しずつ晴れてゆく。
おぼろげだった意識が戻ると、目の前におさきちゃんやえつ子さま、そしてみどり姉さまや母上の顔が並び、そろって私を見つめていた。
「あれ……私……?」
目が覚めると、みんなの顔がホッと緩む。
「よかった……!心配したのよ⁉︎」
みどり姉さまがおっしゃり、えつ子さまもうなずいてくださるけど、母上だけは厳しいお顔をして小言をおっしゃる。
「まったくお前という子は、何を聞いていたのですか!あれほど軽率な振る舞いをいたすなと申したでしょう!」
「母上……。申し訳ございません」
叱責のはずが目をうるませて涙声になるから、ぜんぜん威力がなくて苦笑してしまう。
「笑い事ではありません!」
「はい……。皆々さまには、ご心配おかけして申し訳ございませんでした」
ひとりひとりのお顔を見渡し、感謝の気持ちを込めて微笑む。みんなも応えて笑みを浮かべてくれた。
ゆっくりと横たわらせていた上半身を起こしてみる。誰かが私を運んでくれたのか大書院に戻っていた。身体に強い痛みは感じない。みぞおちが少しヒリヒリしてあちこちにすり傷はできているが、気にするほどのものはなかった。
記憶をたどってみる。たしか、私は………。
「気がついたようですわね」
声が降ってきて見上げると、あの奥女中の娘が目の前に立っていた。様子を見にきてくれたのか、私の顔を覗き込んでいる。彼女にケガはなさそうだ。
「あなたって、あきれた強運の持ち主ですのね」
「それは……どういうことでしょうか」
すると、彼女は教えてくれた。
「だって、撃たれて倒れたと肝を冷やしたのに、ほとんど無傷なんですもの」
「無傷……」
そうだ。私はたしか、山吹色の着物を着たご婦人のもとに駆け寄ろうとして、そしたらみぞおちあたりに強い衝撃を受けて………。
その後の記憶がない。

