この空を羽ばたく鳥のように。








コォーッ コォーッ








………何の音?






ああーーーーこれは、この鳴き声は。







知ってる。あれは、白鳥の鳴き声だ。








「ほら、空をごらんください。さより姉上」








振り仰ぐと、灰色の雲が隙間なく覆う空を、一羽の白鳥が鳴きながら飛んでゆくのが見える。


真っ白なからだを輝かせ、力強く羽ばたいて。





「白鳥は判別がつき易くていいですよね。大きく白いから、遠目でもすぐそれと分かる」





耳に心地良いその声に横を向くと、いつのまにか平服姿の喜代美がとなりに佇んでいた。



「喜代美……!! よかった、戻ってきたのね!?」



すると喜代美は笑う。



「おかしなことをおっしゃるのですね。私はいつもあなたのそばにおりますよ」


「え……でも、あんたは……」


「たとえこの身がどこにあろうとも、私の心はつねにあなたのそばにおります」



喜代美の穏やかな微笑みを見つめると、彼の言葉がストンと胸に落ちてくる。



素直に信じられる。それは喜代美がけして嘘偽りを言わない誠実な心で接してくれるから。



手をのばして、彼の手を握る。今まで張り詰めていた心がすうっと和らいでくる。



「……悲しいことばかりなの。どうして戦わなければならないの?もう戦なんてやめたい……」



気持ちが緩んで、つい泣き言をつぶやいてしまう。



「らしくないですね。あなたが弱気になるなんて」


「……それは、あんたがいなかったからよ」



文句を言うと、喜代美は笑った。



「先ほど申しましたでしょう。私はいつもあなたのそばにおりますと。ですから何も怖いことはありません」





いつも そばに………?







喜代美はつないだ手を強く握り返して空を見上げた。





空からは迎え入れるように、あたたかな光が差し、彼の横顔をまぶしく照らす。





私も同じように空を見上げると、雲を貫いていくつもの光が差し込んでいた。

それがいっそう羽ばたいてゆく白鳥のからだを白くまぶしく輝かせる。





「希望を失わなければ、必ず道は開けます」





空に羽ばたく白鳥を見上げながら、喜代美は私に伝えた。







喜代美の心は、いつも私とともにあるーーーー。







同じ景色を見上げながら、私も想いを伝える。





「……喜代美、忘れないでね。私の心も、いつもあんたとともにあるんだって」





わかっておりますよ。





彼は柔らかく笑った。

私も笑顔を返す。心はいつのまにか軽くなっていた。









もう、大丈夫だよ。



喜代美がそばにいてくれるなら。



きっと 何も 怖くない。