この空を羽ばたく鳥のように。





 きち子さまを先頭に、私達 婦女薙刀隊は西出丸の讃岐門前へ移動する。



 きち子さまが門兵に毅然とした態度で君公の命を伝えると、戸惑いためらう門兵を叱咤しながら門の脇の潜り戸を開けさせた。



 この門の向こうで、雨あられと降り注ぐ銃弾に身をさらしながら、お味方の兵は必死で戦っている。



 ゴクリと息を呑み込んだ。



 私も銃弾に斃(たお)れるだろうか。

 それとも敵に生け捕られ、辱めを受ける前に舌を噛み切って果てるだろうか。





 (そこはそれ、私の命運だったとあきらめるしかない)





 こそこそと隠れまわりながら命をつなごうとは思わない。

 私だって、誇りある会津武士の娘。

 もし死ぬならば、生きた証(あかし)を堂々と示したい。





 「参りますよ!」



 きち子さまの掛け声に、薙刀を持つ身を低くして、門の外に躍り出る。

 門の外に造られていた胸壁にいったん身を潜めてその先をうかがった。
 目の前で繰り広げられる肉薄戦を見ると、敵兵はみな黒い軍服を着込んでいる。対する味方は老兵が多く、着物の上に胴丸や甲冑を纏っていた。

 区別するのは容易い。私達は混戦していた敵兵の左翼へと駆け込み、決死の思いで斬り込んだ。



 「やあああああっっ!!!」



 敵兵はこの新手に驚いたようだ。まさか女子が薙刀を振りかざして向かって来ようとは思いもしなかったらしい。

 逃げ腰になる敵兵に構わず、掬うように刃を逆手に振り上げる。腕を斬りつけられた敵兵は、背を向けて逃げようとした。その背にも袈裟懸けに斬り下ろす。


 何も考えられない。人の命を奪うという恐ろしい行為にも、躊躇する暇さえなかった。
 ただがむしゃらに目につく黒い軍服に向かって刃を薙いだ。

 研ぎ澄まされた刃はさほどの抵抗もなくするするとすべってゆく。片端だけの鋼の重さをうまく利用すれば、力を込めなくても相手を斬ることができた。
 敵が手にする小銃は接近戦には向かない。刀や小銃で刃を受ける間も与えずに斬りつけた。

 戦ってみて分かった。敵の男どもは、会津の男達より剣撃が劣る。
 相手を女子と侮ったか、それとも普及した小銃の威力に頼りすぎて、己の剣術の腕を怠ったか。

 他のご婦人がたも、あの奥女中の娘も目覚ましい働きを見せていた。特に山吹色の着物を着たご婦人は、なみなみならぬ気迫に満ちていた。

 私達の奮闘に味方の兵も勢いづく。



 「今じゃ!敵を駆逐しろ!」

 「おおおっ!」



 味方の老兵も必死で刀槍を振るい、なんとか勢いを盛り返す。接戦のなか、あらたな吶喊の声とともに敵兵が後ろからどんどん崩れていった。
 三の丸南門から進撃した源太達の決死隊が、城の南側、五軒丁から敵の背後を衝いたのだ。

 両側から挟み討ちにされ、あわてた敵は西側の通りへ逃げ、郭外へ続く南町口へ押し出された。










 ※肉薄(にくはく)……身をもって相手や敵陣などに迫ること。

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