その中に、先ほどの奥女中の娘の姿も見える。
彼女は駆け寄る私を認めると、呆れた声をだした。
「あなた、また泣いてますの。存外泣き虫ですのね」
「これは……煙にやられたのです。ただ、それだけです」
赤い目をしてても強がる。単なる虚勢と見抜かれても。
「お気持ち、察します。ひどいありさまですものね」
ご婦人のひとりが近寄り、かばうように声をかけてくれた。私より年上の、山吹色の着物を着た女性(ひと)だ。
誰もがそう。不安と恐怖を抱えて、それでも懸命に君命に報いようと働いている。
自分だけじゃない。ここにいる皆もそうなのだと思うと、心が慰められた。
集まった婦人達はざっと十人くらいだろうか。あとからは誰も来ない。私が最後のようだった。
この集まりの中に見知った顔は何人かいるけど、竹子さまのお姿は見当たらない。
城中におられるなら、この呼びかけに必ず応じると思ったのに。
(やはり竹子さまは入城されなかったのだ)
あの時 西へ向かったまま、どこかへ避難されたのだろうか。
避難なんて……竹子さまの気質からは考えられないことだけど。
落胆しながら竹子さまの行方を考えあぐねていると、讃岐門から薙刀を手にした婦人達が三名駆けてきた。
彼女らは集まりの中心にいた かっぷくのいい五十代くらいのご婦人に何事かを告げると、そのご婦人が皆の前に進み出て高らかに声をあげた。
「皆さまがた、よく集まってくだされた。わたくしは家老を勤めまする諏訪伊助の母できち子と申します。皆さまがたの君命へのご奉公、心より感謝いたします」
一度 頭を下げると、諏訪きち子さまはそのまま続けた。
「状況を見て参ったところ、やはりお味方の兵は苦戦を強いられております。
どの城門からも、けして敵を侵入させてはなりません。わたくし達も、殿方の足下にも及びはせぬでしょうが、君公の御為、身を賭して戦いましょうぞ!」
とどろく轟音に負けじと高らかに声を張りあげたきち子さまに賛同して、集いし婦人達も勇ましい声をあげる。
戦況を偵察にゆくだけ、などとは誰しも思っていない。皆が戦う意志を見せている。
斯(か)くいう私も、おさきちゃんや母上に偵察だけと伝えておきながら、心では戦いに臨む覚悟を固めていた。
(たとえ竹子さまがおられなくても、私は私の為すべきことをやり遂げなければ)
各地に散らばっていた我が藩の精鋭部隊がお城へ戻られるまで。
それまでは敵に攻略されるなかれと、お城に残る者達は老若男女問わず必死の防戦を繰り広げている。
ともに戦うんだ。
私も、遅れはとりたくない。
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