小書院に戻って、母上とお祖母さまに事情を説明すると、おふたりとも気丈に送り出してくださった。
「くれぐれも目上の方のお言葉を守り、勝手な振る舞いはいたさぬよう、つねに慎み深くありなさい。出しゃばるような真似は決していたしてはなりませんよ」
私の性格を熟知している母上にきつく念を押され、思わず苦笑する。
「はい。ご安心なされませ、そのことは重々承知しております。
それではお祖母さま、母上。行ってまいります」
手をつかえて丁寧に挨拶をすると、荷物の中から籠手と脛当てを取り出す。
それを手早くつけると、端の一角に立て掛けてあった薙刀を手に取り、お祖母さまと母上に黙礼をして小書院を飛び出した。
外へと続く縁側に出ると、そこで草鞋を履き、紐をきつく結ぶ。
いざというとき、足下がもたつくことがあってはならない。
外に出ると、暗雲と黒煙に覆われた天のもと、喧騒とともに銃声や砲声がいっそう激しく聞こえた。
あの激しさの中で、敵を城中に侵入させまいと源太は必死で戦っている。
もしかしたら、お城へ戻ってきた喜代美もどこかで戦っているかもしれない。
(ああ、神さま。どうかふたりにご加護を賜りませ)
目の前で天高くそびえ立つ天守閣を、神仏のように仰ぎ、心の中で切に祈る。
それから気を引き締め、集合場所である西出丸へ、方角をたよりに駆け出した。
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