この空を羽ばたく鳥のように。

 


遠のく源太の姿が見えなくなるまで見つめる。



雑多な人々が入り乱れる中にまぎれて、見え隠れする背中をじっと見据えながら、もしかしてこれが源太を見る最後かもしれないという不安を、何度も何度も胸から追い払う。





(みな、お城を守るため戦いに行ってしまった)





幾人ものその背中を見送りながら、喜代美も感じただろう取り残された寂しさが胸を覆う。





「大丈夫。戻ってくるって約束したもの……」





小声で自身に言い聞かせる。



けれども、たとえどんなに生きて帰ると強く望んだとしても、その想いなど、はたしてどこまで通じるものか。

きっとこの大きな時代のうねりの中に、人ひとりの命など、たやすく呑み込まれてしまうに違いない。





(それでも信じたい。喜代美と源太の運の強さを)





大書院の広縁から源太の姿が完全に見えなくなるとため息が漏れた。


気持ちを切り替えて仕事に戻ろうと踵を返したとき、背後から荒々しい足音とともに、薙刀を手にした年配の婦人が勇んで渡り廊下を駆けてきた。



「皆々さま!君のご命令である!薙刀の腕に覚えのあるものは疾(と)く参られよ!」



大音声が響いた大書院はざわめきが低くなり、婦人に多くの視線が注がれる。



婦人は呼びかけに応じる者を求めて、今度は幾分か丁寧に頼んだ。



「西出丸の讃岐門が危ういとの報せが入り、君命にて状況を確認にゆく次第です!薙刀の心得があるものは、わたくしとともにご同道願います!」


「では、わたくしが参りましょう」



皆が注目するなか、意を受けて速(すみ)やかに立ち上がったのは、先刻 私を窘めたあの奥女中の娘(こ)。



「あ……私も!私も参ります!」



勢いに呑まれて進路を譲ったため、私は婦人の背後から名乗り出た。


婦人は私を振り向き、よくぞとの面持ちで頷く。


私にちらりと視線を投げた奥女中の娘の口元が、かすかにゆるんだ。



続いて看護をしていた婦人達の何人かも応じて立ち上がる。



「かたじけのうございます。では支度を済ませたら、すぐに西出丸にお集まりくださりませ」



婦人は一安心した様子で他の場所へ声をかけに向かった。