この空を羽ばたく鳥のように。

 



源太に聞くと、決死隊は槍組と鉄砲組で敵を迎え撃つらしい。

出陣するという彼が手にしている槍を見て、胸が塞ぐ。



「源太……もしかして、その槍で出撃するの?」


「はい。私は銃の扱いは不馴れですから」



源太は笑顔で即答したが、驚かずにはいられない。
だって、どう考えてみても大砲や小銃相手に槍で挑むなんて無謀すぎる。



「さよりお嬢さま、私の腕をお忘れですか?」



私の心を表情から読み取って、笑って言うなり源太は槍の持ち手を変えた。
すばやく構えると、普段の姿からは想像もつかないような鋭い気合いを発して、しごいた槍を宙に突く。

風がうなり、空気を切り裂いた。



平素から穏やかで、荒々しいところがまるで見られない源太でも、槍を持つとその男らしさに思わず見惚れてしまう。



そういえば喜代美が養子に来る前は、よく源太に槍で薙刀の稽古に付き合ってもらっていたっけ。

それは喜代美が来たことで心がすさんでいた頃も続いていた。

時おり喜代美が槍の稽古をつけてもらい、源太を取られたくやしさに憎さが倍増したのを記憶している。



もとより会津は槍が盛んで、その強さや名声は他藩にも轟いていた。

源太も手が空くと道場に通い、腕を磨いていた。小さい頃は望んで一緒に連れていってもらって稽古を眺めたこともあったけど、たしかに源太は強かった。

軽輩でなければ、藩の重臣の目にも留(と)まっていたに違いないほどの腕前だと思った。





源太は静かに構えを解くと、瞳に強い光を灯して言った。



「旦那さまより受けたご恩は忘れません。この身を賭(と)して、必ずや敵を打ち払ってみせます」


「源太……」



源太は穏やかに微笑んだ。






――――その笑顔が、今まで見送ってきた大切な人達のものと重なる。





(ああ……源太。あなたも行ってしまうのね)





きっと、出撃を前にした源太にかける餞(はなむけ)の言葉は、「殿の御為、わが家門の恥とならぬよう、死を怖れず精一杯戦ってきなさい」。



そう言わなければならないのだろうし、源太もそれを望んでいるのだろう。



けれど。けれど――――。