この空を羽ばたく鳥のように。





 たやすく城門には近づけないと、予想外の強い防備に戸惑った西軍の各藩は、持久戦に持ち込むことにして、ひとまず進撃するのをやめた。

 西軍のほうも事情を抱えていたのだ。数日前からの強行軍で、兵士達はかなり疲労していた。
 しかも三千人程度では、城を攻め落とすことも包囲することもできない。

 西軍の土佐藩参謀・板垣退助は、後続部隊の到着を待ってから攻めようと考え、一旦 兵を外郭辺りまで退かせた。

 再び攻撃が始まったのは、午後になってからである。






 その時 私は、大書院で看護に従事(じゅうじ)していた。

 最初は怖気(おじけ)づいていた(おびただ)しい出血やひどい(じゅう)(そう)、外から聞こえてくる大砲小銃の音にもようやく慣れて勝手(かって)が分かりかけてきたころ、誰かが私を訪ねて大書院にやってきた。

 呼ばれて大書院の広縁まで赴くと、やっと雨がやんだ庭先に、槍を手にした源太が立っていた。

 源太はお辞儀して言う。



 「さよりお嬢さま。ご挨拶に参りました」

 「挨拶……?」

 「はい。旦那さまにお(いとま)()いをいたしまして、お許しをいただきました」



 静かに告げられた言葉に瞠目(どうもく)する。



 (そんな……)



 忠義にあつく頼りにしていた源太が離れてしまうことに、驚きと(こころ)(もと)なさを感じて顔を曇らすと、源太がその理由を述べた。



 「敵が天神橋より攻めて参りました。宰相公のご命令により、決死隊を募り出撃いたします。私はそれに志願いたしました」



 源太の話では、(から)()を狙いお城の南側天神橋畔から攻撃を加えてきた西軍に、まず小室金吾左衛門を隊長とする決死隊が編制され、南門から進撃し、これを駆逐(くちく)したのだという。

 しかし今度は天神口脇にある延寿寺や藩祖以来の祖廟(そびょう)(まつ)る豊岡神社を狙われ、山浦鉄四郎を隊長とし、先に天神橋に出撃した小室隊と合わせて兵を出撃させることとなった。

 源太もおくれはとらじと父上に(いとま)を願い出て、その中に加わることを熱望した。



 「もうお目にかかれぬやもしれませんので。お世話になったご挨拶に参った次第です」



 穏やかにほほえむ姿に目頭が熱くなり、それを気取られぬよう大きく首を振る。



 「いいえ、世話になったのは私達のほうだわ。源太がいなければ、無事にお城へたどり着くことも叶わなかった。
 本当に源太のおかげよ。ありがとう……とても感謝してるわ」



 お礼を言うと、源太は照れくさそうに笑った。










 ※従事(じゅうじ)……その仕事にたずさわること。

 ※銃創(じゅうそう)……銃弾によって受けたきず。銃傷。

 ※勝手(かって)……内部の事情。様子。

 ※(いとま)()い……別れを告げること。また、ひまをくれるように頼むこと。

 ※(から)()……城の裏門。陣地などの後ろ側。また、相手が注意を向けていないところ。

 ※駆逐(くちく)……追い払うこと。


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