この空を羽ばたく鳥のように。

 



納得できずに黙り込む私に、彼女は気丈そうな眦(まなじり)のつり上がった目をまっすぐ向けて問うた。



「この危急に、あなたはどうして入城したの?」


「それは……」


「避難するためでしょ。城へ逃げ込めば、命が助かると思って」



挑発するように嘲笑されて、ムッとする。



「それは違うわ!私は戦いに来たの!この国を踏みにじる輩(やから)に、一矢でも報いたくて!

それに、あるお方とお約束したの。いざ敵が攻めて来たら、一緒に照姫さまをお守りいたしましょうと」





そう―――竹子さまと。





照姫さまの御名を出すと、彼女は笑みを消した。



「あら勇ましいこと。けれどあなたのような心の弱い方に、照姫さまをお守りいたすことなどできないわ。

照姫さまはわたくし達、奥女中の者がしっかりとお守りいたします。
可哀想だけど、あなたの出番はないわね」


「……!」



その時初めて、この娘(こ)が奥殿に仕える女中だと分かった。
上品なお着物も、立ち居振る舞いを見ても得心がいく。



「それにあなたは戦いに来たと申すけれど、薙刀で敵に斬り込むつもりでいたのかしら。
だとしたら、命を捨てにきたってことでしょう。

あなたは自身が死んだのち、自分の死を悲しんで、手厚く葬ってもらいたいの?」



言われて、困惑する。





べつに手厚く葬ってほしいとは思わない。



ただ、私が死んだことを、家族に―――喜代美に報せてほしい。





そう考えて、ハッと気づく。



先ほど命を終えた藩士も、私と同じ思いなのではないか。





(この娘は、私にそれを気づかせたかったのかしら)





あらためて彼女をまじまじと見つめる。

彼女のほうもジッと私を見つめていたけれど、表情から理解したと読み取ったのか、彼女はふっと笑った。



「戦う場所はいくらでもあるわ。城内すべてが戦場よ。
もしわたくしが死んだら、亡骸はその場に打ち捨てておいて構わないわよ」



そんな軽口を言って背を向けると、彼女は大書院へ戻ってゆく。



その背中を見つめて、私は両手で自分の頬を二・三回叩(たた)いた。
小気味よい音が耳を打つ。目の覚める思いだった。





悲しみに くじけたりしない。

どんなつらいことも耐えてみせる。





だってきっと、喜代美も頑張っているはずだから。





「よし……私だって!」


気合いを入れるとたすきを縛り直し、彼女の背を追って大書院へ足を踏み入れた。










※打ち捨てる(うちすてる)……構わないで、ほったらかしにする。手をつけずに、ほうっておく。