この空を羽ばたく鳥のように。





 (竹子さま!)



 なおも竹子さまを追おうとする私を、容赦なく人の波が押し寄せる。

 目の前を通りすぎる者の担いだ行李(こうり)の角が、額にぶつかりズキンと衝撃が走った。

 目がくらみ、あわてて薙刀を杖がわりにつくも、よろめいてしまったところを誰かが受け止めてくれる。



 「さよりお嬢さま!」



 いつのまにかお祖母さまを降ろし、そばに駆けつけていた源太の大きな手が、しっかりと私を支えていた。



 「何をなさっておられます!私から離れぬよう申しましたでしょう!」

 「源太……」



 太い眉をつり上げているのは、なかなかお城に辿り着けない苛立ちからだろうか。
 いいえ、そのまなざしは、本心から私の身を案じているようで。



 「あまり心配をかけさせないでください……!」

 「でも……」



 竹子さまが……。



 追い求めるように視線を巡らす私に、源太は畳み掛けるように言う。



 「私は貴女さまや皆さまをお城へお連れするのが使命です!
 身勝手な行動はお控えください!皆さまを危険にさらすおつもりですか!?」



 私の気持ちを無視した冷徹な言葉だったけれど、源太は皆を無事にお城に送り届けるのが役目。それが正論だとうなだれる。



 「……ごめんなさい」



 素直に謝ると、源太の厳しい顔がわずかに和らいだ。



 「では、もう二度と私から離れないでください」



 源太は私の手を取ると、まわりから庇いながら雑踏が薄れるところまで導いてくれる。

 そして心配顔の皆のところまで連れてくると、私の手を離して再びお祖母さまを背負い、群衆とは別の道を進んだ。

 源太の後ろ姿を追いながらも、竹子さまのもとへ向かいたいと望む心に、後ろ髪を引かれる思いだった。



 (竹子さま……どうかご無事で……)










 ※行李(こうり)……竹・柳などで編んだ箱形の物入れ。