この空を羽ばたく鳥のように。





 ああ、ちがう。問題はそこじゃない。

 重要なのは、喜代美たち白虎士中二番隊が援軍として参戦した戸ノ口原は、すでに敵に撃破されてしまったということ。

 戦いに敗れた白虎隊士たちは、その後どうなったのか。



 「それで……喜代美の行方は……」



 震えながらの問いかけに、源太はつらそうに目を閉じ首を振った。



 「存じあげませぬ……。お味方はみな散り散りになり、お城へ退却している模様です。
 その背を追って、まもなく敵も城下へ押し寄せることでしょう。
 軍首脳の方々は、急ぎ籠城戦の支度を進めておられます。
 私は旦那さまよりその事をおうかがいし、奥さまとお嬢さまがたを急ぎお城へお連れするよう仰せつかったのでございます」



 「ですから早くお城へ」と 強く促す源太の声が、やけに遠くに聞こえる。



 「行かなきゃ……」



 ふらり、と立ち上がった。



 「喜代美を探しに行かなきゃ……。もしかして今ごろ、山の中で手傷を負って苦しんでいるかもしれない」

 「さよりお嬢さま……」

 「行かなきゃ……いま見つければ助かるかも……喜代美はきっと私を呼んでるはずだわ」

 「さよりお嬢さま!」



 つぶやきながらふらふら戸口へ向かう私を、源太が(はば)んだ。



 「お気を確かにお持ちください!どこへ向かわれるおつもりですか!
 滝沢方面は敵で溢れかえっておるのですよ!」

 「それでも行かなきゃ……!あの子きっと苦しんでるわ。私が見つけてあげなきゃならないの」



 両肩を掴まれ、押さえられても抗う。


 心が喜代美を求めてる。
 喜代美のもとへ行きたいと叫んでる。


 源太が今まで見せたことのない様子で怒鳴った。



 「なぜ、お分かりにならないのです!!」



 平素では声を荒らげたことのない源太だった。
 その彼に怒鳴られ、驚いて顔を見上げる。
 源太は太い眉をつり上げ、まっすぐ私を見据えた。



 「喜代美さまがそれを望むはずがございません!
 私には分かります……!
 何よりもまず貴女(あなた)さまのことをお考えになっていたあの方が、来てほしいと望むはずがないのです!」



 両肩を掴む手に力を込めて源太は言った。



 「しっかりなされませ!貴女さまが今すべきことは、喜代美さまを探すことではございません!
 喜代美さまから託されたこの家を、ご家族を守ることでございましょう!?」



 まばたきもしない私の目から、ひとすじの涙が落ちた。




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