この空を羽ばたく鳥のように。





 (―――わかってはいたけど)



 早苗さんが私の申し出を断ることは。

 私は嫌われているもの。
 それはしかたのないこと。


 けれど彼女はともかく、危険が迫っているとわかっていながら、なぜ他の方々までもが屋敷を出ないのか。



 (こんなに大砲の音が近づいているのに)



 たとえ敵が国境を破ったと聞かされても、武家の妻女として当主の留守のあいだに屋敷を空けるなど、もってのほかとお考えなのだろうか。
 屋敷はどれもお殿さまから与えられた大切な預かりもの。それを己の身かわいさに投げ出す訳にはいかない。



 (それは―――たしかにその通りかもしれないけど……)



 それを言うなら誰だってそう。
 本当はえつ子さまとて、ご当主がご不在のおりに屋敷を空けるなどしたくなかったろう。
 けれどもあえて私の顔を立ててくださった。
 お祖母さまとふたりきりで心細さもあったかもしれない。



 (えつ子さま、感謝いたします)


 「まあ、それぞれ思うところもあるのでしょう。
 されど私達は縁あって身を寄せあいましたもの。
 いざ半鐘が鳴りましたら、ともにお城へ参りましょう」



 またみどり姉さまがにこやかな表情でおっしゃると、今度は私も笑みを見せて強く頷いた。



 「そうですね。皆で助けあって参りましょう」