この空を羽ばたく鳥のように。





 用意したお弁当を、お城におられる父上と源太に届けようと、その使いを弥助に頼んで送り出すと、それと入れ違うようにしてえつ子さまがお越しになられた。



 「お言葉に甘えさせていただき、(まか)()しました」



 えつ子さまが凛とした声を響かせて挨拶をすると、お祖母さまと連れてきた下男も「ご厄介になります」と 頭を下げた。
 みどり姉さまと私は、挨拶もそこそこに屋敷の中へと招き入れた。



 「どうぞどうぞ、この雨の中ようこそおいでくださりました。こちらの申し出を(こころよ)くお受けくださり、ありがとうございます」



 みどり姉さまがにこやかにおっしゃるけれど、私はわずかに落胆した面持ちでえつ子さまに訊ねた。



 「あの……えつ子さま。お越しになられたのはえつ子さまとお祖母さまだけでございますか?」



 えつ子さまへ「わが屋敷においでください」と言伝(ことづて)を頼んだとき、私は弥助にこうも付け加えていた。



 「親戚の方がたや隣家の早苗さんのご家族にも、ぜひお声がけください。
 わが家は狭いですが、お城は近うございます。もしお城へあがることになれば、手を取り合いこの難事を乗り切れるはずです」と。



 けれど訪れてくださったのは、えつ子さまとお祖母さまのたったのふたり。
 えつ子さまはかすかに眉を下げて、困ったようにため息を落とすと口を開いた。



 「ええ、そうなの。親戚にもね、声をかけてはみたのよ。私の弟の嫁にも。
 けれどもね、“旦那さまのお留守に屋敷を空けることはできませぬ”と、乳飲み子を抱えた身でかたくなに申しますの。
 ですからしかたなく、わたくしどもだけで参った次第ですわ」


 (そんな……)


 「さ、早苗さんは……」



 呻くように訊ねると、えつ子さまは無言で首を振った。