私が笑うと喜代美も笑い返した。



 「さより姉上、母上とみどり姉上をどうかよろしくお願いします。それから……虎鉄のこともよろしく頼みます」



 そういえば、母成峠の敗報が城下に渡り、外もにわかに慌ただしくなった。
 この喧騒に怯えているのか、虎鉄は今朝から姿を見せていない。



 「わかってる。家のことは何も心配しないで。ぜんぶ私にまかせといて。
 あんたは国のために、自分のできることを精一杯やりなさい」



 涙まじりでもきっぱり言うと、喜代美はさらに笑った。



 「勇ましいですね」

 「そうよ。私は強いんだから」



 涙を払って胸をそらせてみせると、彼はまなざしを細めて頷く。



 「ええ、本当に……。あなたのその強さに、私はいつも惹かれておりました。
 臆病者の私には、そんなあなたがまぶしく見えてならなかった」



 『臆病者』と、自分を卑下する喜代美をじっと見つめる。



 「……喜代美は臆病者なんかじゃないよ。ただ、誰よりも優しいだけ」



 いつも思う。それが喜代美の強さなのだと。
 だからこそ、この日の訪れに不安を覚えていた。

 こんなに優しい喜代美が、いつも自分を差し置いて他人を思いやる彼が、戦場で、たとえ敵と言えども人を殺められるのだろうか。

 もしかして喜代美は、他人を傷つけることに堪えかねて、先に自らの命を差し出してしまうのではなかろうか。

 そんな不安がふくらんで、思わず喜代美に伝えた。



 「喜代美……命を大切にして。けして無駄に死を急がないで。
 生きているからこそ果たせる忠義だって、たくさんあるんだからね」



 危惧して諭すと、喜代美は笑って頷いた。



 「はい。ですが私は、敵の侵略からなんとしてもこの国と大切な人達を守りたい。
 そのために精一杯戦って参ります。
 ですから姉上もどうか……どうかご無事でいてください」



 私を気遣う優しさの中に、男らしい部分も感じて胸が締めつけられる。


 『大切な人達を守りたい』。 



 (―――喜代美。私もあなたを守りたい)



 薙刀をたずさえて、あなたを守るため、ともに出陣したい。

 けれどそんなことは許されない。
 女の身では、喜代美についてゆけない。

 ならば私が、喜代美が大切に思う人達を守ろう。

 そして――――。