「さより姉上。少しだけ目を閉じていただけませんか」
「え……目を?」
涙で濡れたまつげを瞬かせながら訊ねると、喜代美は微笑んで言う。
「はい。まじないをしてさしあげます」
「まじない?」
怪訝に思いながらも、素直に従い目をつぶる。
と、喜代美の手が私の両肩に乗せられたかと思うと、ふいに右のまぶたに柔らかいものが触れた。
(………!)
それは左のまぶたにも同じように触れると、両肩に乗せられた手と一緒にゆっくり離れてゆく。
驚きのあまり、目を見開いて彼を見つめる。
「いっ……今のまじないって……!」
喜代美は照れくさそうに頬を染めて、無邪気に笑った。
「涙がとまるまじないですよ。ほら、よく効いたでしょう」
まぶたに触れたのが喜代美の唇だと気づくと顔中が真っ赤になる。
けれど言われたとおり、驚きで涙が引っこんだ。
「ばっ……バカ!いきなり何すんの……!」
緊張がほぐれて、なんだか笑いが込みあげる。
触れられた喜びに、つい笑顔になる。
照れくさくて、嬉しくて。
いつも笑顔を引き出してくれる――――喜代美の不思議な力。
その力に、いつも救われていたのだと実感する。
「やはりあなたは、泣いているより笑ってるほうがずっといい」
喜代美も頬を染めたまま、安堵の笑顔になった。
「どうか、どんな困難に遭われようとも、いつも笑顔を絶やさずにいてください。
そしてどんなときも、希望を見失わないでいてください」
その言葉が、胸の奥深くに刻まれる。
喜代美の思いが伝わってくる。
――――ああ、そうなのね。
喜代美もそうありたいと望んでいるのね。
「……うん。わかったわ」
頷いて、笑って見せた。
いつも 笑顔を 絶やさない。
それは簡単なようで、なんて難しいんだろう。
(……でも、きっと大丈夫)
喜代美の笑顔が心の中に咲いているかぎり、私も笑顔でいることを忘れない。
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