この空を羽ばたく鳥のように。





 それと同時に、今まで見えてこなかった竹子さまのわずかな隙が見えてくる。



 (小手が空いている)



 瞬時に薙刀が伸びる。素早く踏み込み、小手を狙った。
 竹子さまは待っていたようにそれをかわすと、さらに脛を狙って打ち込んできた。
 後ろに飛んでかわす。着地した足を軸足にして、すぐさま踏み込んだ。再び小手を狙う。
 竹子さまは薙刀を立てて柄で受け止め、それを巻き落とす。

 私は再び中段に構えた。
 竹子さまも切先をピタリと私に向け、中段に構えなおす。



 ――――それはまるで演武(えんぶ)のよう。



 竹子さまの息づかいが分かる。
 不思議と呼吸を合わせることができる。

 私達は形を披露するかのように、阿吽の呼吸でお互いの技を繰り出す。



 隙を見せる竹子さまに導かれるように、薙刀を打ち込む。
 かわされると承知しているからこそ、その先に目を向けることができる。
 次に来る太刀筋を見極められる。



 (竹子さまは次にどこを打ってくる?ならば私はどこを狙って打ち込もう?)



 なんだろう―――喜びで胸が弾む。


 もっと続けていたい。
 もっと竹子さまと打ち合いたい。

 間合いが近づいた時に見えた、竹子さまのまなざしも笑っている。



 (―――楽しい)



 ふと見せた竹子さまのわずかな隙に、誘われるように面を打ち込んだ。

 またかわされることに期待と喜びを感じていた私は、勢いよく面を打つ音にハッと我に返った。



 ――――えっ。



 「一本!勝負あり!」



 優子さんの声に、たたらを踏んで呆然と立ち尽くす。



 「え……違いますよ、今のは何かの……」



 振り返り、何が起こったのか分からずつぶやく私に、興奮して首を振りながら優子さんが駆け寄ってくる。



 「いいえ、今のは見事に決まりましたわ!
 すごいです、さよりさん!あの姉上から一本奪うなんて!」

 「そんな……」



 今まで息をするのを忘れていたような荒い息づかいで、状況が飲み込めず棒立ちになる私に、
 「まだ信じられないのね」とばかりに優子さんは笑った。










 ※演武(えんぶ)……武芸を人前で演じて見せること。