この空を羽ばたく鳥のように。





 私は静かなまなざしでまわりを見渡してから口を開いた。



 「竹子さま。竹子さまは私にお訊ねになられましたね。仇を討つでなく敵を打ち払う気もないのに、何ゆえ薙刀を振るうのかと」



 視線を竹子さまに戻して、さっきの問いの答えを口にする。



 「私は忘れておりました……。幼き頃より一身に打ち込んできた薙刀を、ある時から私は、ただの憂さ晴らしでしか振るわなくなったのです」



 ―――そう。私は喜代美が現れてからずっと、すべてに(おい)て彼に及ばぬ自分に苛立ち、その劣等感をまぎらわせるためだけに薙刀を振っていた。



 「ですが、そんな私に再び薙刀の楽しさを思い出させてくださったのは、竹子さま、あなたさまでございます」



 面を被ったその奥に見える、竹子さまの目が大きく瞬く。
 そんな竹子さまに向けて、私も面の下から微笑んだ。



 「私にとって、竹子さまや皆さんとともに薙刀の稽古を重ねることは、何よりも楽しいことでございました。
 ここに参った時だけ、(かんば)しくない戦況や心に懸かる雲などを忘れ、一心不乱に薙刀を振ることができ、すがすがしい気持ちになれました。
 竹子さまにご指導していただくことで己の未熟さを知り、ただ純粋に強くなりたいと願い、励むことができました」



 竹子さまの全身から、険しさが消えてゆく。
 彼女はゆっくり構えを解いた。



 (―――ああ、そうだったのか)



 竹子さまに告げながら、自分自身 初めて気づく。
 その思いも口にした。



 「竹子さま。私はいま気づくことができました。
 私にとって薙刀とは、いつも身近にあったのです。
 友として、あるいは師匠として。
 そうして時に迷い、心が乱れたおりにも、寡黙に寄り添い、私の心を助ける力となってその先を導いてくれていたのです。
 私は薙刀を振るうことで、己の邪念を払い、気持ちを改めて前に進むことができました。
 私にとって薙刀は、ずっとそのような存在だったのです」



 『男子に負けない女子になろう』。

 次の津川家を担うためにそう決心し、稽古に励んでいた薙刀は、喜代美の出現で単なる憂さ晴らしに変わった。

 けれど そうじゃない。
 私は薙刀を振るうことで、自分自身を保てることができたんだ。