この空を羽ばたく鳥のように。




 優雅な身のこなしで、軽々と攻撃をかわす竹子さまの姿に、勝敗のゆくえを見守る婦人達から感嘆の声が漏れる。

 後ろへ飛んだ竹子さまを追って、二段技を繰り出した。小手から面へ打ち込む。
 けど小手は切先で弾かれ、それでも打ち込んだ面も首をひねるだけで軽くかわされた。



 (竹子さまに近づけない……!)



 技量の差を見せつけられた気がした。
 私が稽古を怠っているあいだに、竹子さまはさらに腕を上げられた。

 ふと焦りが胸に沸く。



 (勝てないかもしれない)



 またこてんぱんにやられて、悶々とする結果に終わるんじゃなかろうか。



 (そしたら、私はいったいどうすれば――――)



 ふいによぎった心の迷いに、知らず切先がぶれる。



 「何を迷うておるのです!先ほどの威勢はどうしたのですか!」



 鋭い声にハッと気づいた時にはもう遅かった。
 私の薙刀は、踏み込んだ竹子さまに打ち落とされて、地面に乾いた音を立てて落ちた。



 「……!」



 荒い息が漏れる。今まで張り詰めていた気力がぷつりと切れて、その場に立ち尽くす。



 「どうしたのです。早く薙刀を取りなさい」



 竹子さまは呼吸も乱さずに声を強めた。



 「あなたの薙刀は、あなたのすべてを如実に表していますよ。
 打たれても、攻める姿勢を崩そうとしない。
 ただがむしゃらに打ち込むのみで、相手もまわりも冷静に見極めることができない。
 もしここが戦場なら、武器を落としたあなたは命をも落としているところですよ。
 敵に捕らえられ、恥辱を受けたくなければ、何があっても薙刀を手放してはなりません」



 私に向けて切先をピタリと当て、厳しい口調でおっしゃる。



 「……私は……」



 荒い息をつきながら、眉を歪めた。



 「私は、戦に出るために薙刀を振るっている訳ではございません」










 ※恥辱(ちじょく)……体面や名誉を汚すこと。はずかしめ。