この空を羽ばたく鳥のように。





 その想いに気づいて、私の目からまた新しい涙がこぼれる。


 ――――ああ。どうして。


 どうして私は裏切られたと感じてしまったの。
 なぜ再び、彼の心を疑ってしまったの。

 いつだって喜代美は、私のことを一番に考えてくれていたのに。



 (これほど私を大事に思ってくれる人なんて、他にいない……)



 もったいない気持ちに溢れる涙を何度も手で拭う。
 それから喜代美に微笑みかけた。



 「そんな心配は要らないわ。それでも私と添い遂げたいって言ってくれる人を夫に選ぶから」



 「いけません」と、喜代美は首を振る。
 気にせず明るく笑ってみせた。



 「生娘(きむすめ)じゃない女は願い下げだなんて、了見がせまいのよ。そんな男、こっちからお断りよ」

 「いけません……!」

 「ねえ、喜代美」



 優しく呼びかけながら、もう一度 彼の頬へ手を伸ばす。



 「喜代美に抱かれたら、私は穢れる?」



 喜代美の瞳が傷ついたように潤んだ。
 しばらく黙したあと、呻くように答える。



 「いいえ……」

 「私の価値は下がる?」

 「いいえ!」



 声をあげたと同時に、喜代美は強く私を抱き寄せた。



 「あなたは穢れたりなどしない……!
 いつだってあなたは、純粋で、まっすぐで、美しく清らかなままだ……!」



 強く抱き寄せられ、嬉しくて手をまわして抱きしめ返す。

 このままひとつに溶け合って、離れたくない。
 心の中から込み上げてくる欲心を、抑えもせずに求める。

 ただただ、あなただけが欲しい。



 「なら……抱いて」



 私の誘いに、喜代美が息を詰めたのが分かった。
 少し離れて、彼が私の瞳を覗き込む。
 その黒く艶やかな瞳をまっすぐ見つめ返して微笑んだ。



 「私を喜代美のものにして。お願い……私に、希望をちょうだい?」



 あなたの命を引き継ぎたいの。
 たとえあなたを失っても、あなたと生きた証がほしい。



 「さより……」



 応えるように、喜代美は再び抱きしめる腕に、今までにないくらいの力を込めた。










 ※もったいない……過分の気遣いや行為に対してありがたいと思うさま。

 ※了見(りょうけん)……考え。思案。また、気持ち。

 ※欲心(よくしん)……物を欲しがる心。