この空を羽ばたく鳥のように。





 悲痛な叫びが、胸を打つ。

 喜代美の本当の望み。
 それは、私の望みと少しも違わぬもの。



 「八郎兄上とて、心の底では同じだったはずなのです……!
 されど兄上は、この国を守るために闘い、見事散りました!」

 「喜代美……」



 喜代美は初めて八郎さまを失った悲しみをあらわにして顔を歪めた。



 「私は八郎兄上に気づかされました。私も自分の幸せばかり望んではいけないと。
 わが藩の現状は、それほど厳しい局面に置かれているのです。
 この国難に、私も武士の子として黙って傍観している訳には参りません。どうか分かって下さい」



 強い思いを込めた瞳で、喜代美は私を見つめる。
 その念頭にあるのは、武士の心得でもある『死ぬ覚悟』。
 喜代美が、武士として、男として固く決めた決意。

 それでも女の身の私は、わずかな希望を求めてしまう。



 「……なら、それまででいい」



 見つめ返して、思いを伝える。



 「短いあいだでもいいの。私を喜代美の妻にして」



 喜代美の目が大きく見開き、そのまなざしが驚きに染まる。



 「たとえわずかなあいだでも、喜代美のそばで妻としての勤めを果たしたい」



 私の申し出に、彼の瞳がせつなく揺れる。
 その愛しい頬に、そっと触れた。



 「私を、喜代美の妻にしてください」













 ※念頭(ねんとう)……心。心の中の思い。胸のうち。