「こんな形であなたを傷つけてしまったこと……まことに申し訳なく思っています」
「傷つく?私は傷ついてなんかいないわ」
頭を下げて詫びる喜代美から顔をそらせたまま言う。
「私はあんたの一番の味方だもの。だから私のことなんか気にしないで、あんたは思う道へ進むがいいわ」
喜代美はじっと私を見つめる。
その視線に痛みを感じながらも続けた。
「心配しなくとも、戦が終わったらすぐに婿を迎えるわ。
私だってもう若いなんて言ってられないしね」
ふふっ、と自嘲が漏れる。
「その人に身を捧げて、子を産んで跡を継がせるの。
私は大丈夫。あんたがいなくともちゃんと津川家を繋いでみせる。だから安心して戦場へ赴きなさい」
強気に言ってみせる私を、喜代美は無言でじっと見つめたまま。
「もういいでしょ、疲れてるの。あんたも早く休みなさい」
切り上げるように言って障子を閉めようとする私の手を、喜代美が強く掴んだ。
「まこと そうお考えですか」
「そうよ、当たり前じゃない。何よ、放して」
物言いたげな視線で問われて、逃げるように手を振りほどこうと抗う。
掴む手にいっそう力を込めて、喜代美はつらそうな顔で問いを重ねた。
「では何ゆえ、泣いておられるのですか」
言われて、頬に流れる温かさに気づく。
自由なほうの手でそっと頬を撫でると、濡れたものに触れた。
――――涙。
「あ……」
泣いてると自覚してしまうと、さらに目から温かいものが溢れて落ちる。それが とまらない。
「いや……見ないで!」
本当の心を知られたくなくて部屋の奥へ逃げる。
掴んだ手を離さず、喜代美も部屋へ足を踏み入れた。
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