夕餉の時間は、いつにもまして暗い沈黙が辺りを覆った。
八郎さまの訃報が届いた日から、わが家では笑顔の明かりが消えていた。
それは、喜代美が笑わなくなったから。
つねに穏やかな微笑を浮かべて家人に対し優しい言葉をかけていた喜代美。
そのため家人のあいだにも穏やかな空気が流れ、自然と広がっていた笑顔と温かな雰囲気は、八郎さまの死とともに失われてしまった。
そんな私達に、久しぶりに戻るはずだった笑顔。
家人みなが待ちわびていた朗報は、喜代美ひとりの決意にあっけなく打ち消された。
一日の後片づけを終えて、部屋に戻る。
寝巻きに着替えて床を延べると、力が抜けたように布団の上に座った。
することが無くなると、紛らわせていた感情が再び沸き上がってくるからイヤだ。
振り払うように首を振る私の耳に、呼びかける声が聞こえた。
「……さより姉上」
障子の向こうから響く、喜代美の声。
「さより姉上。お話があるのですが、よろしいですか」
会いたくなんかない。
話したくもなかったのに。
「疲れてるの。明日にしてちょうだい」
布団の上に座ったまま断ると、沈黙のあとまた声がした。
「少しでよいのです。すぐ済みますから」
「いやよ。疲れてるの」
「どうかお願いします」
「………」
一歩も退かない気配を漂わせる声に、ため息をついて重たい腰を上げる。
障子を開けると、すぐ目の前の縁側に喜代美が佇んでいた。
夕餉を終えてすぐに部屋へ戻ったはずの喜代美は、私よりずっと早く休めるはずなのに寝巻きにも着替えておらず、袴さえ脱いでいない。
「……何よ。話ならここで聞くわ。手早く済ませて」
立ったまま目も合わせずに言うと、喜代美は「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げた。
「家督の件でお礼を申し上げたく参りました。
私の意を汲んでいただき、父上に口添えしていただけたこと……まことに感謝しております」
「当然よ。私は喜代美の一番の理解者になるって決めたんだもの。私は約束を守るわ」
そっけなく言うと、喜代美は申し訳なさそうに目を伏せた。
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