この空を羽ばたく鳥のように。





 「……喜代美の望む通りにしましょう」



 静かにつぶやく私の声に、喜代美以外の皆がいっせいに振り向く。



 「うむ……さより、じゃが……」

 「たしかに国が滅亡すれば、津川家の明日もないもの。
 喜代美の好きにさせて下さい」



 伏し目がちに私が言うと、平身低頭していた喜代美がかすかに頭をもたげてこちらを見る。
 けれど私は、あえてそれに目を合わせなかった。



 「よいのか、さより」



 父上が確認するのへ、ゆっくり頷き返す。



 「ううむ……」



 父上は顎に手を添え、考え込む。
 当人である喜代美や私にこうまで言われると、強硬することにためらいが生じたのかもしれない。

 しばらく思案していた父上が、やがてあきらめたように深く嘆息しておっしゃった。



 「……いま結論を出す必要はなかろう。とにかく、一晩落ち着いてよく考えなさい」



 そう言い置いて父上は不機嫌に立ちあがると、足音も荒く居室へと姿を消した。
 それに続くように皆も席を立つ。

 家人達が無言で仕事に戻り始めるなか、喜代美だけはその場で頭を下げたまま、しばらく微動だにしなかった。