この空を羽ばたく鳥のように。





 八郎さまの訃報(ふほう)は、屋敷全体を暗く(おお)った。

 その日の夕餉は、誰も一言も口をきかなかった。
 ただ黙々と食事を済ませるだけ。

 皆も、沈鬱(ちんうつ)な表情で目を伏せている。
 時おりちらりと横目で喜代美を(うかが)いながら。


 家族みなが、喜代美を心配している。


 八郎さまの死を知らされても、喜代美は泣くことはなかった。
 今も取り乱すこともなく、ただ静かに箸を動かしている。
 けれどもずっと難しい顔をして、何か考え込んでいるようだった。

 そんな彼の姿に、家族みなも父上さえも、かける言葉が見つからない。










 ※訃報(ふほう)……人が死去したという知らせ。