手紙の送り主は、金吾さまだった。
そこには、喜代美が送った手紙や御守りのことなどいっさい書かれておらず、
乱れた筆跡で、守備していた小松関門での戦闘で八郎さまが戦死したことを伝える短い文章が綴られていた。
折しもその日は、八月十一日。
八郎さまの亡くなられた日付けを見て、涙がいっきにあふれだす。
十一日。
その日は、喜代美が両兄君に宛てて手紙を認めた日。
両兄君のための御守りと匂い袋を包んで、おふた方のご無事を祈りながら笑いあった日。
あの日、とうに八郎さまが亡くなられていたなんて――――。
「そんな……嘘よ!八郎さまが亡くなるなんて……!そんなの……そんなのいや!」
言い表せない感情が心の奥底から突き上げて、慟哭がほとばしる。止めどなく涙が頬を伝う。
八郎さまと最後の挨拶を交わした時の笑顔が脳裏によみがえる。
あの笑顔が、永遠に失われたなんて。
喜代美が膝を詰め寄り、腕を伸ばして私を強く抱きしめた。
「……っ、申し訳ありません‼︎」
苦しそうな、つらそうな声で喜代美は詫びる。
「私が……私がもっと早くに手紙を書いておれば。早くに御守りと匂い袋を送っておれさえすれば!
さすれば兄上は、生き存えたかもしれないのに……‼︎」
そうじゃない。
喜代美の腕の中で、力なく首を振る。
喜代美のせいじゃない。
これは どうしようもなくしかたのないこと。
そしてそれは、最初から覚悟しなければならなかったこと。
けれど口を開けば、出てくるのは嗚咽ばかりで、喜代美を慰める言葉をひとこともかけてあげられなかった。
つらいのは喜代美のほうなのに。
それが分かっているのに、込みあげてくる感情を、暴れたくなる衝動を、喜代美の腕で抑え込んでもらうしかなかった。
※慟哭……ひどく悲しんで、激しく泣くこと。
※嗚咽……声をつまらせて泣くこと。むせび泣き。
.

