自室に戻ると、乱れ箱に稽古着を包んだ風呂敷を投げ入れ、弾む心持ちで縁側から喜代美の部屋に向かう。
「喜代美、入るわよ!」
いつものように返事も聞かずに障子を開けて中へおじゃますると、喜代美はそれに応えず、文机の前に正座して手紙に目を通しているところだった。
「喜代美、両兄君からは何て?御守り、喜んでくれた?」
明るく訊ねて、喜代美のとなりに座り込む。
けれどそれにも応えず、喜代美は表情を固めて瞬きもせずに、手紙を食い入るように見つめていた。
「喜代美?……どうしたの?」
応えがないので肩を揺すってみると、それに反応して一度だけ瞬きした喜代美が、ゆっくりとこちらに黒々と濡れた目を向けた。
その瞳を見て、瞬時に不吉な予感がよぎる。
喜代美は愕然としたまま、震える唇で低く低く呻いた。
「……八郎兄上が……」
その名を聞いて、全身に戦慄が走る。
「かして!」
奪うように喜代美の手から手紙を取りあげ目を走らせると、そこには『戦死』の 信じたくない二文字が書かれてあった。
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