この空を羽ばたく鳥のように。





 結果は、惨敗だった。竹子さまとの手合わせで、案の定私はこてんぱんにやられた。

 彼女は隙のない優雅な身のこなしで、こちらのわずかな隙を見逃さず的確に打ってくる。
 面を狙おうとすれば(すね)を打たれ、脛を気にすれば小手を打たれる。
 攻めの傾向が強い私は、どうしても防御にまわる反応が遅い。

 それでも、他の方には気づかれない程度のものだと思ったのに、竹子さまは容赦なくそこを突いてくる。

 彼女の打撃はその姿から想像できないほど重く、防具を着けた上からでも、打ち込まれると身体がビリビリ痺れた。



 「さよりさん。あなたのその“肉を切らせて骨を断つ”の精神は立派だと思いますが、ただ勢いで押し切ろうとするのではいけません。
 相手の出方を冷静に見極め、自分の身を防御することも念頭に置くよう心掛けなさい」



 竹子さまの厳しいお言葉。

 「少しは手加減してくれたらいいのに」と、そんな文句が頭をよぎるけど、彼女はいざ戦いに臨めば、少しの油断も甘さも命取りになると、私に教えてくださったのだろう。

 そう思えるから、竹子さまに負けても、なぜか不思議とくやしいとは思わなかった。



 宅稽古場からの帰り道。私は身体のあちこちに痛みがさすたび、そこをさすりながらヨロヨロと歩く。



 (やっぱり竹子さまには、勝てそうもないわ……)



 けど、新たな意気込みが湧いてくる。



 「……よし、明日こそ!竹子さまに目にものを見せてやるんだから!」



 私はひとり、気合いを入れて大きな独り言をこぼす。

 あの人に、近づきたいと思う。
 足元だけじゃない。堂々と渡り合えるほどになるまで。



 (負けませんよ、竹子さま)



 日が短くなってきた茜空を見上げて、すがすがしい気持ちで決意をあらたにした。










 ※念頭(ねんとう)……心。胸のうち。