この空を羽ばたく鳥のように。





 「……疲れたでしょう?」



 喜代美の手にたっぷり甘えて心が満たされてから訊ねると、彼は苦笑を漏らす。



 「そうですね。やはり、少し疲れました。……ですから」



 喜代美は浴衣の(たもと)から、細長い油紙の包みを取り出した。



 「……あ」

 「帰りにお諏方さまに寄って参拝したおり、買って参りました。疲れた時には甘いものが一番ですから」



 包みを広げると、そこには鳥飴が二本。
 それを包みごと私に差し出す。



 「さ、おひとつどうぞ」

 「……うれしい。約束、覚えててくれたのね」



 ひとつを手に取り 喜代美を見上げると、目を細めて頷いてくれる。



 「あなたと交わした約束は、どれひとつだって忘れておりません」



 当たり前のように言われ、嬉しさが込みあげる。
 受け取った鳥飴を見つめて、自然と笑みが広がった。



 「……ありがとう」



 鳥飴を口に含みながら、喜代美の福良出張の話に耳をかたむける。

 疲れているにもかかわらず、初めての外泊や見聞きしたこと、そして若松への帰り道で見禰山(みねやま)に寄り、土津(はにつ)神社へ参拝し戦勝祈願をしてきたことなどを語る喜代美は楽しそうだった。

 けれど話が戦況へ移ると、その表情に翳りがさす。



 「寄合白虎隊は、越後へ出向いたそうですね」



 夜空を見上げて、ふとつぶやかれた言葉にはっとした。



 「う……うん」



 金吾さまと八郎さまが戦っている越後。
 喜代美は羨ましいと思っているだろうな。

 まるで星の行方を探すかのようなまなざしを夜空に向けたまま、黙りこんでしまった喜代美に心配の目を向けると、気づいた彼は困ったように微笑んだ。



 「気遣いは無用です。たとえどのような役目を仰せつかろうとも、ありがたく受けるのが臣下の勤め。
 私達はただ、君命を待つのみです」



 反対に私を気遣うように言ってから、憂いを含んだまなざしを地に落とす。



 「……ですが、私には分かりません。薩長はなぜここまで、わが藩を潰すつもりなのか」










 ※土津神社(はにつじんじゃ)……藩祖保科正之公の霊廟。

 ※君命(くんめい)……主君の命令。