(今までずっと待ってたんだもの。あと少し待つくらい、訳ないわ)
……なんて、後片づけを終えて部屋へ戻り、浮き立つ心を抑えながら縁側に腰掛け喜代美を待つ。
しかし月が中天にさしかかっても、喜代美はなかなかやって来なかった。
(遅い……。いくらなんでも遅すぎる!)
しびれを切らせて様子を窺ってこようと立ち上がると、暗がりから呼びかける声。
「さより姉上。お待たせして申し訳ありません」
声のしたほうを振り向くと、自室から縁側を渡ってきた喜代美が佇んでいた。
湯上がり姿で、洗った髪をおろしたままゆるく後ろで束ねている。
「あ……喜代美。お風呂つかってたのね」
ホッとして頬を緩めたあと、そういえば去年の祭礼の晩も彼はこんな姿だったなと思い出す。
あの時は女人と見紛うほどの艶やかさがあったが、いま目の前に立つ彼はだいぶ身体の線が違っていた。
細いのは相変わらずで、両兄君には到底及ばないだろうけど、それでも以前より筋肉がついて、体つきも男らしくなってきたんだとあらためて気づく。
「すみません……。父上が上機嫌なものですから、なかなか下がることができなくて。
母上が湯浴みを勧めて下さらなかったら、もうしばらく動けないところでした。
風呂までつかっていたせいで、だいぶ待たせてしまいましたね」
「いいのよ。父上は喜代美をなかなか離さないだろうって分かってたし」
余裕を装いすまして言うと、喜代美が苦笑した。
「すみません」
私達は縁側に腰掛けた。
久しぶりに見るたくましくなった喜代美にドキドキして、なんだか恥ずかしくて気持ち間隔を空けてしまう。
「お勤め、ご苦労さま」
それでもやっとふたりきりになれた嬉しさに、目を細めて労いの言葉をかけると、喜代美はにこりと返して手を伸ばしてきた。
「あなたに触れたかった」
手の甲で私の頬にそっと触れると、それをすべらせ優しく撫でる。
それだけで、胸が心地よい痛みに締めつけられる。
そんな彼の手に両手を添えて頷いた。
「うん。私も触れてほしかった……」
愛しいその手に頬をすりよせる。
甘い幸せが胸いっぱいに広がった。
※見紛う……見まちがえる。見あやまる。
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