その晩は屋敷全体に明かりが灯ったように、久しぶりににぎやかな夕餉になった。
膳を囲んだ父上も母上も このうえなく上機嫌で、自分たちのおかずを次々と喜代美に勧めている。
「さあさあ、喜代美さん。長旅でお腹が空いたでしょう。
今夜は祭礼でたくさんご馳走をこしらえたから、遠慮しないでたんとお食べなさいな」
「永の不在で母の味が恋しくなったのではないか。存分に食べるがよいぞ、喜代美」
思い返せばひと月もない出張で、家を開けていたのも二十日ほどのことだったのに。
私たち家族にとっては、まるで三年も四年も待ちわびたような迎えぶりだった。
喜代美はそんな家族の対応に苦笑しながらも、勧められたおかずを断りもせずに受け取り、嬉しそうに言った。
「ええ、本当に。やはり母上がこしらえて下さった食事が一番美味しいです。
母上の料理を食すと、わが家へ帰って来た実感が湧きます」
その言葉と出されたおかずをきれいに食べきる姿に、母上は目を潤ませて喜んだ。
父上も母上も、みどり姉さまも。
台所に控えて食事を取る源太も弥助もおたか達も、みんな始終笑顔で。
ああ 喜代美は、こんなにも大きな喜びを家族にもたらしてくれる存在なのだとあらためて感じた。
夕餉を食べ終えたあとも、父上と喜代美は福良出張の話で盛り上がっていた。
源太や弥助まで混じって興味深そうに耳をかたむけ、時おり喜代美に何か質問したりしている。
女達は食事の後片づけ。
もちろん話に混じってなんかいられない。
空になったお膳を運びながら、酒を囲んで白河の情勢や越後の戦況を語る男達の中に混じった喜代美をちらりと見る。
喜代美はすぐに気づいて、こちらに向けた目を優しく細めた。その唇が小さく動く。
喜代美が軽く頷くと、私も小さく頷き返してすぐ顔をそらした。嬉しくて緩んでしまう頬を、どうしても抑えきれなかったから。
『あとで 縁側で』。
(……うん。待ってる)
ふたりきりでゆっくりできる時間を。
そのぬくもりに触れて、寄り添える時を。
にまにましてしまう顔を必死で隠しながら、はずむ心のまま手早く後片づけを終わらせた。
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