それからしばらくして、再び重い足取りでおゆきちゃんの屋敷をあとにした。
………正直、驚いていた。
私より、年下のおゆきちゃんのほうが、しっかりと心を定めていた。
彼女は大切な人の死が現実に起こりうることを、きちんと認識しそれを見据えていた。
それなのに私は、彼女の何を慰めようとしていたのか。
(なんて情けない……)
すでに夕焼けに染まりはじめた空を見上げる。
空を仰ぎながら、なんだか無性に喜代美に会いたくなった。
喜代美に会って、その笑顔を見て、「不安に思うことなんてないよね」と 笑いあいたい。
「私達はずっと一緒にいられるよね」と、手を握りしめたい。
気鬱な心を抱えて歩く私の耳に、諏方神社の方角から笛や太鼓の音が聞こえてくる。
その音色を聞いて気づく。
(忘れてた。そういえば、もうすぐお諏方さまの祭礼だ)
きっとこの笛や太鼓は、祭礼の日のための練習をしているんだろう。
去年の祭礼のおり、喜代美は嬉しそうに私が仕立てた露草色の小袖を着て出かけていった。
そして一緒に参詣できない私に、鳥飴を買ってきてくれた。
あの時がまるで、ついほんの少し前のことのように思えるのに。
(喜代美は、約束を覚えているだろうか)
会いたい。
茜色の空を見上げながら、遠く会えない喜代美の無事を祈り、帰路についた。
※気鬱……気分がふさぐこと。
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