おゆきちゃんに痛々しいものを感じながらも、私は首をひねる。
脳裏に浮かんだのは、あの彼岸獅子のおりに、おゆきちゃんを人一倍気にかけていた弟君の姿。
たしかにおゆきちゃんに対する彼の態度はぶっきらぼうであったけれど、それでも彼のまなざしには彼女を労(いたわ)る心が滲んでいた。
姉であるおさきちゃんも気づくほどなのだし、彼の想いは確かなものだと思うけれど。
おゆきちゃんの想いを拒まなければならない理由が、何かしら彼にはあったのだろうか。
「でも、おさきちゃんが言ってたわ。跡を継ぐことになった弟君に、妻としておゆきちゃんが添うてくれたらどんなにいいかって」
多少 おさきちゃんの言葉を誇張するかたちになってしまったが、彼女もきっとそれを望んでいるはずだし(もちろん両親の許可が下りればの話だが)、
何よりおゆきちゃんを励ましたくて、声を高めて言ってみたのだけれど。
その言葉を嬉しがる様子もなく、おゆきちゃんは表情を曇らせるだけ。
「……利勝さまは、家督をお継ぎにはならないと思います」
低くつぶやかれる言葉に、私は目を瞠った。
「それは、どうして?」
弟君は利勝なんて名前だったかなとちらりと思ったが、それよりも後の言葉が気にかかって訊ねると、おゆきちゃんは寂しげなまなざしを庭のサツキに向けながら答えた。
「利勝さまは、一刻でも早く戦地へ赴き、雄介さまの仇を討ちたいと願っておいでです。
そしてお殿さまへの忠誠を示すために、戦場で果てるお覚悟なのでございましょう」
哀しみを含みながらも、たゆむことなく響く芯のこもった声音に、愕然とした。
.

