この空を羽ばたく鳥のように。





 その視線を受けとめながら微笑して見せると、言葉を続けた。



 「でも私は、全然気にならないわ。あなたをおさきちゃんと同じ大切なお友達だと思っているから。
 だからおゆきちゃんも謝ることなんてないの。いつも通りに振るまっていいのよ」



 私の言葉に、おゆきちゃんは強張っていた表情を緩めた。
 目を伏せるとすまなそうに言う。



 「……申し訳ございません。初めてお見せする方には、どうしても構えてしまって……」

 「そうでしょうとも。無理ないわ。けれど私はもう初めてじゃないから、おゆきちゃんも構えたりしないでね」



 大きく頷いてから、ふふっと悪戯っぽく笑うと、ようやくおゆきちゃんから警戒心が解けたのか、彼女の顔に自然な笑みが浮かんだ。



 「……はい。ありがとうございます」



 そのあと私達は、簡単な時候の挨拶を交わしたあと、話が世情への不安にうつると自然と喜代美たち白虎隊のことが話題になった。



 「若殿さまは、いつお戻りになられるのでしょうか」



 おゆきちゃんは庭に目を遣りながら、沈んだ声音で訊ねるともなくつぶやく。



 「そうね。でもあれからもう十日以上も経つわ。きっとそろそろ帰ってくるわよ」



 私もおゆきちゃんにではなく、自分に言い聞かせるように言葉を継いだ。


 喜代美たちのいる白虎士中隊が、そのまま戦場の前線へ送られることはないと思いたい。
 彼らはまだ学生だ。前途ある若者を、藩の重役の方がたとて みすみす死なせるようなことはさせないだろう。


 まぶたを閉じると、喜代美の出立の時の笑顔がはっきりと浮かび上がる。
 それだけで会いたさが募る。



 「大丈夫よ。もうすぐちゃんと帰ってくる……」



 まぶたの裏に映る喜代美の姿を思いながら念じるように低くつぶやくと、その様子からおゆきちゃんが何かを感じ取ったのか、はっとした表情を見せた。



 「そういえば、おさよさまの弟君も、白虎隊に配属されておいででしたね」



 そう言うと、おゆきちゃんは身動(みじろ)ぎして姿勢を正すと両手をつかえた。