この空を羽ばたく鳥のように。





 客間に通されると、おゆきちゃんは「お茶の支度をいたしますので」と、すぐに座敷を出ていった。
 足が悪いため、ヒョコヒョコといびつに歩く彼女の背中が消えたあと、座って待つ私は所在なげに開け放たれた障子の向こうの庭に目を遣る。
 庭には、きれいに剪定(せんてい)された大小のサツキが植えられていた。

 まだ暑さは続いているけれど、暦の上ではもう秋だ。
 花の盛りはとうに過ぎて今は葉ばかりだが、満開時にはさぞや美しく咲くことだろう。

 来年花が咲いたおりに、また訪れてみたいと思った。
 昼もだいぶ過ぎて陽が傾いてきたせいか、そんなサツキに長い影が落ちている。



 「お待たせいたしました」



 その声に、お茶を運んできたおゆきちゃんに向き直る。
 彼女は私の向かいに座ってお茶を出すなり、手をつかえて頭を下げた。



 「見苦しい姿をお見せいたすこと、お許し下さいませ」



 突然頭を下げられて驚きつつも、はっと気づく。

 おゆきちゃんは左足が思うように動かない。
 だから正座するにも足先が外側を向き、右寄りに姿勢が崩れてしまう。

 おゆきちゃんもそんな自分を見せたくなかったようで、恥ずかしさに心なしか目元を潤ませてうつむいた。


 今までは足を引きずりながらも、立ち姿の彼女しか見ていなかったから、正座することができないとまで考えが及ばなかった。
 知ったと同時に、今までの彼女の苦労と心情が偲ばれた。

 皆が当たり前に出来ることを、当たり前のように出来ないおゆきちゃん。
 それが彼女の控えめな気質の根本なのだろう。

 そう思うと、外で会ったおりに私に向けてくれた微笑が哀しいものとして思い起こされる。


 きっとおゆきちゃんは、正座すらすることも出来ない自身の姿を、私に見られたくなかったに違いない。
 それなのにその場気分でいきなり屋敷に押しかけてきて、申し訳ないことをしてしまったと自分の浅慮さを悔いた。



 「おゆきちゃん許してね。深く考えずにいきなり押しかけてきて」



 なんだかとても申し訳なく思えて一息に詫びると、おゆきちゃんは驚いたように顔をあげて私を見つめた。