この空を羽ばたく鳥のように。





 ずっとそばにいた喜代美の姿が見えなくなると、私の心はぽっかりと穴が開いたようだった。
 喜代美がこんなに長いあいだ屋敷を留守にするなんて、初めてのことだったから。
 実家に帰省する時でさえ、泊まることはなかったのに。


 喜代美のいない寂しさは、とにかく薙刀に打ち込むことで(まぎ)らわせた。


 そして任されたとおり、実家の高橋家をたびたび訪れ、えつ子さまやお祖母さまのご機嫌をうかがう。

 高橋家へ赴くたびに、となりに住む早苗さんのことが心懸かりで、つい隣の屋敷に目を遣る。

 喜代美に想いを打ち明けられたあと、私は早苗さんにそのことをどう伝えたらよいか悩んで、ずっと連絡を入れられないままだった。

 けれど喜代美と心が通じ合い、私は早苗さんに、自分の正直な気持ちを伝えようと決めた。

 これまでの事の経緯と謝罪の言葉を文に(したた)めて送ったけど、早苗さんからは何の音沙汰もない。

 きっと私に対して、憤懣やるかたない思いをしているに違いない。



 (それは、しかたのないことだわ……)



 早苗さんの想いを考慮すれば、恨まれてもしかたないことだ。それほどのことを、私はしてしまったのだから。

 高橋家を出てちらりと隣家の門を見遣り、ため息をつきつつその場をあとにする。










 ※憤懣(ふんまん)やるかたない……腹が立ってしかたないのに、やり場がなくてどうしようもない気持ち。