この空を羽ばたく鳥のように。





 喜代美を見送った日から五日後の七月十五日。
 私はふたたび、お城三の丸の御門から出陣してゆく白虎隊の行進を見送った。

 同じ白虎隊でも、彼らは中士の子弟で編成された寄合(よりあい)白虎隊。
 彼らは喜代美たちのように、殿に付き従う護衛兵ではない。まぎれもなく戦いにゆくのだ。

 寄合白虎隊は、越後口の防衛のため出陣する。
 国境を守備する軍に合流し、迫りくる西軍を阻止するために。

 隊士たちの中には、元服を済ませたばかりの者もいるのだろう。まだ幼さの残る顔も多く見られた。
 そんな彼らが、自分の身の(たけ)ほどもある銃を担いで、戦いに身を投じるのかと思うと胸が詰まる。



 (どうかご武運がありますように……)



 彼らも喜代美となんら変わりない。
 これからの会津藩を担ってゆく少年達だ。

 けれども軍の上層部は、上士の子弟で編成された士中隊をお殿さまの護衛でしか出兵させないのに対し、中士である寄合隊には兵の補填(ほてん)のために前線へ向かわせている。

 広い国境を守るのに、兵が足りないのは十分承知しているけれど……。



 『我々は藩に擁護されております。それが情けなくてなりません』



 福良へ出張する前に、喜代美が漏らした言葉。
 あれは白虎隊の中でも、上士である士中隊を指していたんだと知って胸が痛む。

 身分社会の世だから、門閥意識が根強いのはしかたないのかもしれないけど……。


 いつか喜代美から聞いたことがあった。
 白虎士中隊は、寄合隊と同じ場所での調練を拒んだことがあると。



 「たとえ軽格だとしても、ともに国を憂い身命を尽くす同志に変わりはないのに」



 喜代美が残念そうにこぼしていた。
 その意識が、上層部でも同じく作用しているのだろう。

 それなのに、心の隅でそんな上層部の意向(いこう)に感謝している自分がいる。










 ※補填(ほてん)……不足分・欠損分をおぎなって埋めること。

 ※擁護(ようご)……侵略や危害を受けないように、かばって守ること。

 ※門閥(もんばつ)……家の格付け。家格。または家柄のよい家。

 ※調練(ちょうれん)……兵士を訓練すること。

 ※意向(いこう)……このようにしたらどうかという考え。思わく。